がま磯を世に送り出す職人が重視する
釣り人の感覚
がま磯を生み出す職人がいる。本来であれば、開発者または設計者と表現すべきだろうが、こと、がま磯を生み出すものの表現としては職人の呼び名がしっくりくるに違いない。 他社の磯竿と比較して、がまかつの磯竿は生っぽいと表現されることがある。無機質な工業製品である磯竿に、まるで生命が宿るかのような感覚を封入するための工程は、がまかつにはたしかに存在する。 そのひとつに『釣り人特有の感覚を大事にするモノづくり』がある。 釣り人の感性はどこまでも鋭く、コンピュータによる解析では表現できない『感覚』の支配する世界が確かにある。チヌ競技スペシャルⅣには幾多の名竿を生み出してきた職人によって釣り人の感覚が盛り込まれている。
まったく相反する調子を求められる
競技竿の調子とチヌ竿の調子
がま磯 チヌ競技スペシャルⅣはチヌに特化した磯竿でありながら、競技を追求したモデルである。
「競技会、いわゆるトーナメントで勝利するために生まれた竿である。すなわち、どこまでも操作性を追求した竿にほかならない」
操作性。この短い一言には実に多くの実釣性能が秘められている。例えば、軽さ。持って軽く、疲れない事。例えば、振り込み。狙いすましたピンポイントに寸分たがわず振り込めること。例えば、ラインメンディング。一瞬で流れる仕掛けの違和感を取り去るためのライン操作。こういった性能をひっくるめてがまかつでは操作性と表現する。
「本来、こういった性能を追求すると先調子の竿になる」
明確な先調子の磯竿は、掛けるまでは最高の性能でも、魚を掛けた後のやり取りで苦戦する。硬いだけの竿は魚が暴れやすく糸が切れやすい。ひと昔、ふた昔前は、こういった竿を使いこなす事こそが技術であるともてはやされた時代もあるが、その後の流れでいわゆる粘る竿が主流となっていった。
「特にチヌの場合、テンションをいくらかけても叩きを抑えられるアクションでないと、チヌ竿は名乗れない」
操作性に優れた先調子の磯竿でいいなら造作なく創り出すことができる。だが、竿を叩くようなファイトになってしまい、チヌ竿の理想とされる調子とは対極のものになってしまう。竿全体で荷重を受け止め、竿が大きく弧を描くようなチヌ竿は、曲がりの美しさもさることながら、何より磯師がやり取りに安心感をえることができる。こういったチヌ調子の竿は魚が暴れず、バレにくく、細ハリスを保護してくれる。
「たとえ競技という名を冠していたとしても、チヌ竿である以上、チヌ調子でなければならない」
操作性を追求したうえで、柔軟にいなす竿を創り出す。これまでの常識では困難な作業であった。だが、職人には確信する素材があった。
シャープでありながら、
柔軟性をもあわせもつ
驚異の素材・TORAYCA®T1100G
TORAYCA®T1100G。この素材特有の“感覚”が存在するという。
「これまでのカーボンより強度面に優れているだけでなく、それ以上に、これまでのカーボンとは違う、釣り人に訴えかける特有の性質がある」
T1100Gは弾性率33tの中弾性カーボン。これまで、もっとも強度に優れたカーボンは30tカーボンであった。通常、30tカーボンよりも弾性率が高くなると、張りがでるものの強度は低くなる。ところが次世代カーボンであるT1100Gはより弾性率の高い33tカーボンであるにも関わらず、強度も上まわっている。強度があり、弾性率が上がるという事は、同じ強さの竿をより軽くよりシャープに仕上げることができる。
「もともと33tのカーボンは存在していて、従来の33tカーボンとT1100Gは同じ設計図なら、実際の竿もまったく同じカーブを描く。ところが、振った印象はまるで異なる」
これは感覚的な話であり科学的根拠はないが、と念入りに断ったうえで、しかし、釣り師としての確かな感覚があると職人は話す。
「従来カーボンは曲げ切ったところで止まるような感触があるのに対し、T1100Gは曲げ切った先でさらに粘りこむような感覚がある。これは数字で表せるようなものではないのかもしれないが、多くのテスターが共通の意見であった」
この特性こそ、まさにチヌ竿にふさわしいに違いない、と職人は目論んでいた。それも、競技調子にこそふさわしい、と。振って軽く、シャープ、一方で素直にどこまでも曲がりこむ。この特性がチヌ競技スペシャルⅣで見事にはまった。
操作時は先調子、やり取り時には胴調子へと移行する可変テーパーという表現はわかりやすくはあるものの、生まれ変わったチヌ競技スペシャルに関しては正しく表現できているわけではないと職人は語る。
「先調子というよりはシャキッと調子。胴調子ではなく粘り調子。何調子かっていわれれば、がま調子のチヌ調子としか表現しようがない」
それがT1100Gという素材が切り開いた新しい競技スペシャルの世界である。時代に追従し、あるいはリードすることが宿命づけられたチヌ競技スペシャルⅣは全身をT1100Gで武装し、全くの別物に生まれ変わることになった。手にしたものは、その戦闘能力に感嘆するに違いない。