ある日の夕方、携帯が鳴った
がまかつ広報スタッフからだ
「アテンダーⅢの口太ロケを頼みたい」
おまけに今回はTVCM撮影も兼ねていて
「きれいな竿曲がりを撮りたい」と。
それは、結構型のよい魚を釣ってくれということか。
いきなりプレッシャー…
北村憲一( きたむら・けんいち)
グレの鬼才、チヌの天敵こと松田稔さん直系の愛弟子。
高知県鵜来島や沖ノ島などデカ尾長の巣窟をホームとする生粋の尾長師。
ちなみに尾長グレの記録は沖ノ島の二並島、東のハナ高場で釣った65.5㎝。
アテンダーⅢのプロモーション!?
自分にプレッシャーがかかったのは言うまでもなく、がまかつの屋台骨ともいえる磯竿で、その中でもエース級の新型「アテンダーⅢ」のプロモーションだからだ。
先代のアテンダーⅡは、松田稔師匠が、自身の鵜来島における尾長グレ記録を塗り替える66㎝オーバーを、カメラがまわっている前で釣り上げたシーンで、一気に人気に火が付き、何年分ものバックオーダーを抱えた、伝説的ロッド。
その、後継ロッドプロモーションの一環を自分も担えるかと思うと、やってやるぞの心意気とともに、師の偉業を想うとプレッシャーを伴うのは当然のことか。
釣り場は口太グレの聖地(?)の日振島に
釣り場は、自分が決めていいということだったので、サブホームともいえる、愛媛県の日振島に。
渡船は、普段はイカメタルでお世話になっている「渡船 よしだ屋」さんにお願いすることにした。
6月の中旬のロケ当日は、梅雨の中休みか、快晴。
しかし、少し風があったので、影響が少ない北向きの「横島の北のナカ」に上げてもらった。
釣り座は狭く、後方にするどくかけあがっている磯だ。水温は23度。
やや高いかなというくらいで、ここ2、3日は、40㎝級の良型口太がポツポツと上がっていた。
黒塗りのプロトタイプだが中身は本物
使ったロッドは、「アテンダーⅢ」(プロトタイプ)の1.75号の5.3m。
日振のグレのサイズには少しオーバースペックかも。
ということは、広報からのリクエストの”きれいな竿曲がり”を見せるにはより大きなグレを釣らないといけないってこと。
この海域ではまれな50㎝クラスの口太がきても耐えられるよう、1.75の道糸に、1.5号のハリスを結わえた。
そして、第一投。
潮は「横島の北のナカ」の定番ともいえる、釣り座から見て右(東)から左(西)に流れていた。
時間帯により引かれ潮の影響でよれたりゆるんだりしていたが、いわゆる”釣れそうな”潮だった。
グレも見えていたので、まず、潮目の筋の手前に1杯まき餌を放り込み、仕掛を振り込んだ。
するとどうだ、「Ⅱ」の唯一のウィークポイントである、胴調子ゆえの微妙なコントロールのむつかしさが、「Ⅲ」では払しょくされているではないか‼
まるで、先調子の競技ロッドかのように狙ったところへ仕掛を投入できる。
新型のカーボン構造だとか#1を短くしたとかを、竿の設計者から聞いてはいるが、実際に使ったフィーリングを伝えるのが自分の役目と割り切っていうと、やりたいことがやや遅れて表現される「Ⅱ」に比べ、「Ⅲ」はリアルタイムに反応してくれるということ。
ウキは師匠の思想が詰まった「松山」の4ー4を使った。普通の浮力でいうとBくらい。ウキ下は1ヒロ半をとった。
日振島のグレ釣りでよくあることなのだが、1杯目にまいた、まき餌の「ポチャん」という音に反応して集まってきたグレが、さっと一口だけ味わっていなくなる状況。特に型の良いグレのみいなくなっちゃう、竿を曲げろという指令を受けている自分にとってはバッドコンディションだった。
ゆえに釣れるグレはしつこくまき餌をあさっている30㎝までの小型で、1.75号では胴まで曲がらない。
まき餌を一か所に打つとコッパが集まって来るだけなので、ウキの手前や沖にまいてみても結果は変わらなかった。
そんな中、仕掛がなじむ前にかすかな違和感が。小型のアタリだと思ってアワセたのだが、リールを1巻き、2巻きするうちに望外の重量感が、ずんと胴にのってきた。
一瞬しかなかったまき餌とサシエの同調にやっと良型がだまされてくれたのか…。
ロケ隊+自分の思いが通じたのか、ついにその時はやってきた。
「これ結構でかい」
手ごたえがある。じわじわと竿の力点が手前に動き、キリキリと竿が絞られる。
だんだんと美しく曲がりつつあるアテンダーⅢ。
継ぎは新構造と聞いていたが、ほんとうにほれぼれする曲線が表現されている。
「ほうじゃ、これじゃ、これじゃ」と師匠の声が聞こえてきそうな理想の曲がり。
カメラマンさんはしっかり撮ってくれてるかな…。
「スパっ」と決まった(?)タモ入れで上がってきたのは、狙い通りの46㎝の口太だ。おもわずガッツポーズ。
ロケ隊もスタッフも大喜びしてくれている。ほっと肩の荷が下りた。
その後迎船まで粘ったがサイズアップはかなわず納竿となった。しかし、美しい曲がりのCM撮影というミッションをコンプリートしての冷えに冷えた一杯は本当にうまかったのだった。
出来上がったCMは、自分が自分じゃなくくらいかっこよく編集されていたし、兄貴分の西森康博さんが釣った60㎝オーバーの尾長グレの曲がりもとても美しく収録されていた。
尾長の引きに耐えている西森さん、渋いっ!!
僕が釣った口太も収録されています。ぜひ、CM見てください。