シーズン開幕直後の大一番
きたむら・けんいち
松田稔を師と仰ぎ腕を磨く。高知県沖ノ島・鵜来島のデカ尾長をはじめ、高知県柏島や愛媛県日振島の口太狙いにも力を注ぐ。デカ尾長の自己記録は沖ノ島の二並島・東のハナで仕留めた65.5cm。
例年より一月遅れのスタート
ベタ凪無風の奥の奥へ
「例年であれば10月20日くらいからキツ(イスズミ)の中に尾長が確認できてぽろぽろ釣れ出すんですけど、今年は10月がぜんぜんダメ。最近になって尾長の数が増えだしたという話なので、ひと月くらい遅れている感じですね」
2023年11月21日、冬の鵜来島海域にしては珍しいベタ凪無風のなか、水島2番の奥の奥に北村憲一は渡礁した。
ポイントは水島2番の奥の奥。逆光となるため少しでも海中が見えるように釣り座とポイントの角度を変えていく。正面に見えるのは姫島だ。
産卵のため沖から尾長グレが水島群礁に入ってくるシーズン初期は、水温もあって活性が高いため厳寒期に比べると釣りやすいといわれる。そうはいってもアバウトな釣りで型を見られることはない。魚の動きを目でしっかりとらえてマキ餌とサシ餌をきっちり合わせて初めてチャンスが訪れる。高場の前に釣り座を構えた北村は、午前7時にマキ餌をスタートし海中の観察に入った。
「イサキの下にキツかなんかが1、2尾おります。魚が沖に出て行きよらん、サメがおるんかもしれませんね」
しばらくするとイスズミか尾長かがチラチラと見えるようにはなってきたが、マキ餌は消えずに残っている。条件反射的にマキ餌に出てくるだけで喰ってはいないのだ。とはいえ、いつ喰い気のスイッチが入るかわからないのがここの尾長グレ。10分ほどマキ餌を撒いた後、北村は静かに釣りを開始した。
この日のタックルは竿がアテンダーⅢ1.75号5m。ウキは5-5で直下にG3を1つ。
「風があれば影響を受けにくいように2.5号や2.75号の道糸を使いますが、無風なので初期の大型に期待して3号でいきます。ハリスも3号ですね。ハリはのみ込まれるのを防ぐためMシステム尾長喰わせの8号。食いが悪ければ速攻に替えます」
潮はゆっくり左から右へ流れるなか、いきなり竿を曲げたのはダツ。やはり水温が高いのだろう。その後、イサキ、小型のイスズミが喰ってきたが尾長の気配はない。
「仕掛が入っていないときは魚が浮いてくるけど、ウキが入ると警戒して沈む。よくないですね」
そんな状況が続いたあと、北村は早めの弁当タイムをとった。
やる気のある尾長に照準
誘いをかけて喰わせる
「マキ餌を完全に切ったので、向こうの釣り人(右隣のポイントのカベ)が撒いているマキエに魚がついていったみたいですね」
釣りを再開すると、ものの見事に何も見えなくなっていた。それでもしばらくマキ餌を続けていると、イサキとイスズミが姿を現し、その下に尾長っぽい青白い魚が見え始めた。
9時43分、アテンダーⅢが大きく弧を描く。なかなかの重量感だが、ほどなく竿が跳ね上がった。ハリをのまれていたようでチモトがぷつりと切れている。それを防ぐため、ハリ立ちが早く掛けアワセの利くMシステム尾長速攻の8号にチェンジして釣りを再開。沖から手前へ少しずつポイントをずらしながら攻めていく。そして10時25分、アテンダーⅢが激信をとらえた。
竿尻を下腹に当てて臨戦態勢に入ると、魚は磯際に沿って左へ走りだした。船着きの角を回り込みそうだ。潮が低くて露出していた下の段に下りた北村は竿尻を左手で握り竿を右に倒して耐える。一瞬ヒヤリとしたが強靱な竿の曲がりと反発力が、魚の突っ込みを止めて右へ引っ張りだしてきた。
突進を喰い止める
粘りとパワーは圧巻
両手で竿を握り右に倒して耐える。ウルトラアクティブサスデザインの節のない曲がりが左の角を回り込もうとする尾長の突進を食い止める。
ここからは竿尻を下腹に当てた安心感のあるやり取りで体力を奪う北村優位の場面。取り込みにいたるのは時間の問題に思われた。ところが、どうしたことか竿がのされかけている。何かトラブルでも起きてしまったのだろうか。それでもなんとか持ち直し取り込んだのは56cmの尾長だった。
「キツやイサキの下に尾長が見えだして、最初沖にいたのがマキ餌を撒いて釣っていると段々手前についてきた。そしたら手前で何尾か大きいのが腹を返し出したので、それを狙い撃ちにしました。矢引きぐらいのところまで浮いてきよったんですけど、ウキ下をひとヒロくらいにして沖めに投げて、仕掛を手前に引っ張り込んで、浮いてきた尾長に誘いをかけて喰わせました」
狙い澄ました1尾
釣り人勝利の瞬間は近い
青白いグッドサイズ尾長が姿を見せた。助っ人に入った仲間のタモが伸びる。釣り人勝利の瞬間はもうすぐだ。
リールに道糸が絡まるピンチ
アテンダーⅢの粘りで脱出
浅ダナ狙いのためハリスにオモリを打っていなくても、ハリの重さで仕掛はすぐに立ってしまう。仕掛が立つと見切られるので、仕掛を張って斜めにするのだ。
「仕掛が立つとマキ餌を喰っている尾長の下にサシ餌がある状態なので、尾長のタナに斜めに誘い上げる。釣りたいタナにもってくるんです。今日は風もないので、マキ餌を縦に打って、その中に引っ張り込めるので楽ですね。風があるとすぐにズレますから」
ところで最後にのされそうになったのはどういうわけか。
「魚が弱った段階で道糸がリールに巻きついたんですよ。まったく糸が出ない状態で竿がまっすぐになりそうでしたが、なんとか竿が味方してくれた。アテンダーⅢじゃなければ切れていたと思います。助かりました」
苦笑いする北村。ワンチャンスをものにする北村の喰わせ力と、予期せぬトラブルでもしっかりサポートしてくれるアテンダーⅢの底力を見せつけられた一日だった。
光る喰わせワザと驚異の粘りでを奪取
ワンチャンスをモノにする北村の喰わせワザと、まさかのトラブルを驚異の粘りで助けてくれたアテンダーⅢの底力で手にできた56cm。