INTERVIEW 開発秘話
最新最強テクノロジーの手応え
メイドインジャパンの誇り
竹内潤太郎
たけうち・じゅんたろう
2004年がまかつ入社。福岡県生まれ。子供の頃から海釣りに親しみ、大人たちが使っていた赤玉口のがまかつ竿に魅了される。企画開発課竿担当ひとすじ18年。
100パターンを軽く超える試作を経て
生まれたのは歴代最高の三代目
アテンダーとはどんな竿?
初代アテンダーはもともと6機種しかなかったのですが、口コミで評判が広がってどんどん機種が増えていきました。本当に名竿だったと思います。
初代が出た頃のグレ竿は先調子が多かったのですが、胴調子のほうが細いハリスも使えるし、大物の引きにも耐えられる。先調子は使いこなすのに釣りの技術が必要で、万人向けという調子ではないので、今は胴調子の竿が多くなっていますね。初代マスターモデルの影響もあって時代が変わったんじゃないですか。
初代アテンダーも胴調子でしたが、松田さんの言うゴムのような調子、元竿まで曲がる一本調子になったのはアテンダーⅡからです。先調子の竿で魚をいなすよりも、竿にまかせてしまうほうがキャッチ率が上がる。それはいっぱい魚を釣ってきた松田さんだから分かるんですよね。
アテンダーⅢは何が違いますか?
今回はカーボン素材に『トレカ®T1100G』を使っているんですけど、竿の縦(長手)方向だけじゃなくて、横(円周)方向にも採用したというのが最大の特徴です。
アテンダーⅡのときには『トレカ®T1100G』がなかったので、今回それを縦横に使うことによって強度アップと軽量化を実現しています。
この素材が出て9年くらいかな。いろんなメーカーさんが(縦繊維で)使われていますけど、薄目付材(薄いカーボンシート)を作るのは難しくて、今回はそれに成功したのでアテンダーⅢには縦横両方の繊維で使うことができました。
がまかつのオーダーで開発してもらった新材料です。強く、軽いこの構造は『タフマトリックスシステム』と呼びます。
インタビューに答える竹内さんの前には特注のカーボンシートや分解した竿が並んだ。各部の説明に力が入っていた
コロナ禍での開発は大変でしたか?
コロナ禍での開発だったので、いつもなら竿を作ってテストに行って、というのを繰り返すんですけど、今回は社内で先に何パターンも作りました。アテンダーⅡのときも100パターンくらい試作を作ったんですが、今回はそれよりも多くなっていますね。
コロナ禍で外に出られなかった分、社内でいろんなテストができたのはよかったところかもしれません。たとえば強度の部分もそうですし、今回は『ウルトラASD』をどのように入れるといちばん効果が発揮できるか、そのような検証です。
いつもなら新しい機構を搭載する際、その効果を早く実感したいので、すぐに実釣テストで使いたくなるところですが、今回は釣りに行く前に何パターンもテストできたので、いちばん効果的なパターンを確立した上での実釣になったから、よりいいものができたと思います。
竿の味付けとしては大きくは変わっていません。アテンダーは楽に魚を浮かせるのがコンセプトなので。
そういう意味では『ウルトラASD』や『先短設計』のおかげでアテンダーⅡよりもⅢのほうが楽に魚を浮かせられて取りやすいですね。テストロッドの1.75号で取った60cmオーバーの尾長はパワーの証明になった感じです。あと操作性も格段によくなってます。
輝くエンブレムが施される行程
松田稔さんはどのように竿に関わったのですか?
松田さんにはアテンダーⅡをどのように進化させていくか、アテンダーⅢの構想の段階から参加してもらっています。その後色々な構想が膨らみプロトロッドを作成しました。それの方向性を決めるたたき台として、1.25号と1.75号で15パターンくらい作って見てもらった際に、「こんないっぱいテストできんわ!」とおっしゃっていました(笑)。
企画開発としては『トレカ®T1100G』や『先短設計』をⅢに取り入れたい、というところから話しています。たとえば『先短設計』を取り入れたものと、取り入れてないものを比較していただいたり、オモリを吊るしたり。そういったことを繰り返しながら煮詰めていきました。
松田さんとのお付き合いはいつからですか?
松田さんと初めてお会いしたのは初代マスターモデルのテストのとき、徹夜で打ち合わせをしたりするので僕は運転手役ですね。入社2、3年目です。憧れの釣り師なので最初は本当に緊張しました。竿作りに関しては厳しい方なので、今でも竿テストで、松田さんと磯に上がると緊張しますね。
でも釣りの引き出しの多さ、それが製品開発の広さにもつながっていて、僕らが知らないことを知っておられるし、思いもよらないことを思いつかれる。釣り具の開発において「そんなやり方もあったのか」と気付かされることが多いですね。
磯竿でいうとおそらく松田さんが初めて作ったものもたくさんあります。例えばフカセ竿になくてはならないべたつき防止。今では当たり前のように搭載されていますが、松田さんは当初ナイロンラインを中竿に螺旋状に巻いて、瞬間接着剤で固定していました。それが今の形状の原型となっています。
元竿の先端に付いていたガイドを元上のフリーガイドにしたのも松田さん。要はリールからの距離が近すぎるから、距離をあけたほうがラインの放出性能が良くなるとおっしゃってましたね。
磯竿の1.25 号や1.75 号等の中間号数の規格とか他にもたくさんあるのですが、道具と釣技の進化の最前線にずっとおられる方です。
全国各地色々な釣りに同行させていただきました。昔、高知県の鵜来島でのG杯のときですが、選手は試合をしているときに、竿のテストをしていただいていました。夜にみんなが食べた脂の乗った尾長グレの塩焼きは松田さんが釣ったものです。そのときは僕がタモ入れをしてたんですが、60cmくらいまでを7尾釣ったんですよ。3尾目くらいでタモ枠がはずれて海に落ちてしまって、松田さんにめっちゃ怒られました(笑)
そりゃあもちろん、アテンダーⅢの担当者としては気合いが入りますね。松田さんの場合はすべてを進化させないと納得されないので。
操作性と大物を浮かせる力の進化
『ウルトラASD』はどのような機構なのですか?
アテンダーⅡでは『スーパーASD』といって、当時考え得るいちばんきれいな継ぎだったんですけど、機構だけでなく材料も考えてそれよりも進化させたのが『ウルトラASD』です。
素材を薄くしたこともあるんですが、継ぎ目ブランクが重なる部分の材料に衝撃吸収性の高い特殊材を使うことで、硬くならないようにしています。
もちろん『トレカ®T1100G』が使えるようになったので、強度が保てるようになったことが大前提としてあります。それがアテンダーの売りである、タメているだけで魚を浮かせられるという部分につながります。
竿の継ぎが曲がると何がいいのか。要はASDが入っていないと竿が魚の引きを吸収してくれない。荷重が(継ぎの部分で)トン、トン、トンと断続的に伝わると、止まったときにテンションが抜け、その間に魚が反転して突っ込んだりすることもあります。
そうすると、のされたり糸が切れたりします。スムーズに荷重が伝われば魚にスキを与えず頭をこちらに向けた状態でやり取りができる。
テストでオモリを吊り上げたとき、『ウルトラASD』が搭載されているとフワッと上がりますね。曲がりが戻るのもスムーズ。それは竿が起きる(魚を浮かせる)力になります。
『先短設計』を採用したのはなぜですか?
アテンダーⅡは強靭なバットを持っていただけに、穂先が結構強かったんですよね。竿としては先重りする部分もあったので、今回はその部分を払拭して、先は短く軽くするけどちゃんとバットに力が伝わるようにしたのが『先短設計』です。
すごく難しくて、先を短くすればするほど強くなり過ぎてしまいます。そうすると仕掛けを振り込んだときに先が暴れちゃいます。ピタッと止まるのが理想なんですけど、弱すぎると今度は振り込む力がなくなってしまう。
ブレがなく振り込んでよし、持ってよし、という長さを見つけるのが苦労しましたね。なにせそれぞれの号数で長さはちがいますからね。手間はかかりますよ、普通の竿に比べるとものすごく……。
グリップ周りが新しくなった利点は何ですか?
今回のもうひとつの売りがグリップ周り。オリジナルの『タフライト リールシート』は手が大きい人でも小さな人でも握りやすいようにしているんですけど、ラバーの凸形状とシボの加工を変えているので、より握りやすくなっています。
エンドグリップもリールシート同様、手の大きさに関係なく…… これもかなり試作を作ったんですけど、竿全体のバランスを考えながら長さや体積を算出して、手の大きさを問わず誰でも持ちやすいように。なおかつ、ヒジを当ててやり取りするときに滑りにくいようにこだわっています。
実際に釣り場でユーザーの方が持ったときに使いやすい竿をめざしたので、アテンダーⅡよりブランク自体は軽いのですがエンドグリップに重量を乗せています。なのでカタログ記載の重量は重いんですけど、ものすごく低重心の設計になっています。
竿を伸ばした状態での先重り感がないし、重心の位置でいうと、アテンダーⅡよりもかなり手前でバランスが取れるようになっています。リールを付けるとさらに手前に重心がくるので、アワセなどの動作や操作性がよくなりましたね。
アテンダーⅢの開発担当として最後に
今回は胴調子の弱点である操作性も克服されているし、もちろん大型の魚を浮かせる力も進化しています。細ハリスへの対応力もそうですし、鈎をのまれたときもテンション変化が少ないので切られにくい。
魚も暴れにくいので、一定のテンションを保つことができれば意外と切れないんですね。本当にいい竿になったんじゃないですかね。
初めて手にされる方はもちろんですが、歴代のアテンダーを使用されている方には、ぜひ進化の違いを体験していただきたいですね。
熟練の技が冴える。鍛錬の手作業で仕上げる
シルバーとガンメタを
基調としたデザイン
手作業で行う厚塗り作業
玉口に金を塗る
元竿の製作過程
神谷典誠
かみや・のりまさ
2000年入社。
企画開発課 竿担当。初代アテンダーからロッドデザインを担当。
「魚が宇宙に飛んでいく…」歴代アテンダーのデザイナーが語る
目指したのは“釣りが楽しくなる”デザイン
今回のアテンダーⅢは「魚が宇宙に飛んでいく」というのが松田さんのコンセプト。で、考えろと(笑)。それで落ち着いたのがこの形なんですけど、竿先に向かって魚が上って行くイメージですね。元竿のデザインもあるので左右対称に入れたりもしていたんですけど、それじゃ自由じゃないということで、デザイン画はかなり描いて、それを松田さんのところへ持って行きましたね。
アテンダー全体でいえばイメージはブルーなんですよね。初代から濃紺、ネイビーが特徴だったんですけど、今回はもう少し明るくなって、これも松田さんのこだわりなんですが「もっと明るく釣り人が楽しくなるように」というのでさわやかなブルーになっています。玉口の赤色もブランドカラーではあるんですけど、松田さんが監修した竿は通常のものより派手な特別色になっています。
一方でアテンダーⅢは、がまかつの竿にしては珍しく金色を使っていないんですね。元竿はシルバーとガンメタで統一しているのもひとつの特徴だと思います。
私がデザインでいつも意識しているのは太陽光。太陽の下でどのように見えるか。実は室内では見えないけど、外で初めて気付くような模様を隠していたりすることもあります。アテンダーⅢに使っているホログラムなんかも外で見るとかなり印象が変わります。たくさん試したんですけど、これがいちばんきれいに見える色でしたね。外で見るとめちゃくちゃ派手ですよ。