山中久志 Hisashi Yamanaka 時合いを逃さぬ眼力を磨く
やまなか・ひさし
1978年生まれ。中学時代に友達に誘われて少し釣りをかじる。仕事を始めてからは須崎の磯でのんびり竿を出していたが、松田稔のVHSビデオを見たことで釣りの神様が降臨。尾長グレで本気の釣りに目覚める。57cmを釣ったあと出会った西森康博に弟子入りし研鑽の日々。
自己記録は59cm。食べることも大好きで、尾長グレは刺身、焼き入り、水炊きで堪能する。
大事なのは釣れない時間の過ごし方
少ないチャンスをとらえた55cm
海の中をしっかり見ること
沖ノ島から朝日が昇るなか、水島2番奥の奥の高場右側で釣りを開始。
釣り開始から3時間半が経とうとしていた。前日はよく見えていたという尾長の姿は依然見えない。それでも黙々と釣りを続ける山中久志。釣れない時間をいかに過ごすか、そこにチャンスは隠されている。
チャンスはいつ訪れるか分からないから、魚の反応がない時間帯も手を休めることはない。
「西森(康博)さんにいつもいわれてるのが、いいときって5分しかないときもあるし1分だけかもしれない。いつ始まって、いつ終わるかわからないから、とにかく海の中をしっかり見ろと」
魚が見え出す、動きがよくなる、早く餌が消える、茶色い魚体や青い魚体の尾長がまじりだすといった視覚情報がチャンス到来の合図。山中はそれを逃さなかった。
9時30分、待望のアタリをとらえたのだ。
節を感じさせないアテンダーⅢの曲がり。曲がり込んだあとの粘りが魚の力を奪う。
どこまでも粘り
魚の力を奪う
強烈な締め込みをアテンダーⅢ1.75号5mの胴に乗せてしのぎ、竿が起こしてきた分のラインを素早く巻き取る。取り込んだのは45cmクラスの尾長グレ。
「イサキが上のほうにおったがですけど、2投に1回、ちょろちょろ尾長が見えるようになってきた。それでウキ下をちょと深めのふたヒロくらいにしたらきましたね」
釣り座を構えた水島2番の奥の奥、高場の右側は、当て潮に向かい風と決して釣りやすい状況ではなかったが、ウキ先行で流されてきた仕掛が足もと左から出るサラシに押されて斜めにうまく張れた瞬間のヒット。チャンスを逃さない山中の眼力と集中力が貴重な1尾を導いた。
松田稔のビデオで尾長にハマる
27、28歳のころ「面白い人がおる」と友人に渡された松田稔のVHS(ビデオ)を見たのが尾長釣りを始めるきっかけだった。
「白岩やグンカンで尾長を釣っているんですけど、釣りって静かにやるもんだと思っていたのに、すごく楽しそうにワイワイやっている。そんな松田さんにどハマりしました」
いてもたってもいられず、ビデオを貸してくれた友人と沖ノ島へ初アタック。
「それまでは地元の須崎でボーっと釣りをしていただけでしたからね。ノコバエに上げてもらって、今にして思えばそんなに吹いてなかったですが、もう台風並みの風に感じて、釣果はさっぱりでした」
そこから沖ノ島・鵜来島通いが始まる。ただ尾長の姿が見えてもなかなか喰わせることはできなかった。
それでも尾長釣りを始めて3、4年が経ったころ、水島2番の船着きで初めての50cmオーバーとなる57cmを仕留めることができた。
「本当にうれしくて、体が震えました」
そして西森康博と出会い、尾長釣りが大きく進化する。
「先に西森さんと知り合っていた岩﨑(秀雄)とか会社の先輩に紹介してもらって。ちょくちょく一緒に釣りに行かせてもらうようになって、いろいろ教えてもらいました。
一番はとにかく海の中の状況をしっかり見ること。いいときを見逃さないようにですね。魚が見えなくてもマキ餌をしていれば状況は変わるかもしれない。そのタイミングを見逃さないために休まず釣りを続けること。それとマキ餌にしっかりサシ餌を合わせることとかですね」
そうしたことを意識して釣ることで、明らかにアタリを取る回数は増えた。
そして、2023年4月に水島2番の奥の奥で自己記録の59cmを仕留めたのだ。
「そのときは夕釣りで、魚は浮いていたのですが、ぜんぜんサシ餌を触らない状況で、1回だけ触ったんですよ。それを取ることができた。いいところに鈎が掛かっていたし、そんなに大きいとは思わなかったですが、浮いてきた姿を見たらデカかった」
ワンチャンスをものにする大切さを改めて感じる1尾となった。
魚が暴れないアテンダーⅢ
1尾目を仕留めた後は再び尾長の姿も見えなくなり状況は芳しくない。右からの風が強まり、当て潮と相まって釣りづらさに拍車がかかる。そこで昼前に、船着きに釣り座を移した。
お昼前、奥の奥の船着きに釣り座を移動。この判断が的中した。
沖向き正面をしばらくやったあと、左側の竿1本半くらい前に見えるシモリ周りへ狙いをチェンジ。打ち返しを続けていると、しばらくして魚の姿がちらちらと見え始めた。マキ餌の真ん中にサシ餌がなじむよう、仕掛を投入するタイミングや位置を計りながら尾長との間合いを詰めていく。数度の空振りのあと、アタリをとらえたかと思われたが、まさかのアワセ切れ。すぐに仕掛を作りなおして釣りを再開したときだった。
ガツンとアワセが決まった。
竿尻を下腹に当てて竿全体で引きを受け止める。朝の魚よりも明らかに大きそうな重量感あふれる締め込みにアテンダーⅢが美しい弧を描く。締め込みに追随して曲がり込んだあとの粘りが魚の力をうばい、引きが止まるとすぐに起こしてくる。
釣り人をフォローする強靱な粘りとパワー
竿の胴に乗せて締め上げる。無理はしないが弱気にはならず、アテンダーⅢの強靱な粘りとパワーを信じて勝負に出る。
継ぎ目の段差を極限までなくして究極の曲がりを実現したウルトラアクティブサスデザインの威力。
仲間が差し出すタモに収まったのは55cmの尾長グレだった。
「ぜんぜんサシ餌を触らなかったのが30分くらい前からちょっとずつ触りだして、多分いい時間帯になってきたんでしょうね。魚も見えだしてマキ餌の先端側にサシ餌を入れたら着水してすぐに飛びついてきました。アテンダーⅢは魚が暴れる感じがなく、安心して曲げることができますね」
これぞまさに鵜来島海域の尾長グレ。でっぷりと肥えた55cmに頬が緩む。イサキすらサシ餌を触らなかったことから鈎をMシステム尾長速攻の8号から7.75号に落としたこともよかったのかもと。
マキ餌の先端で喰わせた
納得のグッドサイズ
この海域らしい体高のある尾長に満面の笑みを見せる山中。その後、魚の活性が下がってしまっただけに、とても価値の大きな1尾となった。
「尾長の魅力って、やっぱり思うようにいかないことですね。すごく難しいだけに、それが釣れたときの喜びが大きい。それと僕は食べるのが大好きなんですよ。この海域の尾長はすごくおいしくて別格です。60cmを釣って食べたいです」
これまでにもロクマルらしき魚は掛けているはずだが、取り込みには至っていない。
「西森さんによくいわれるのは、最初の突っ込みに耐えたら、あとは糸を出しながらゆっくりやれば取れると。最初は強気で勝負してあとは落ち着いてやれといわれます。それを心がけて1日1回、2回のチャンスを逃さないようにしたいですね」
山中がロクマルを手にする日は、そんなに遠くないはずだ。