村田 裕樹むらた ゆうき
広島県出身。20歳頃に釣りを始め、年間100日以上磯に通いつめ大型の青物を狙っていた。その後、長崎県の離島に通うために広島県から、より釣り場に近い福岡県に移住をする程の釣り狂。ホームフィールドは北部九州の磯。今回の舞台である男女群島には10年程前から通い始める。特にジグの釣りを得意として200g前後の重めのジグを磯から多用するヘビージグスタイル。時には400g近いジグまで使用することも。仲間から“アタリセンサー”と呼ばれるほど魚を探す能力に長けている。
男女群島の中でも
渡礁率の低い肥前鳥島にて
北小島が見える中小島に渡礁した。
今回は二泊三日の行程でカンパチ、キハダマグロをメインターゲットに据えて男女群島に挑んだ。初日は男女群島から更に北西方向に30kmほど離れた肥前鳥島に渡った。肥前鳥島は男女群島の中でも”特級磯”として知られているポイント。広大な水平線が続く景色に突如として表れる絶海の孤島。マップの航空写真にも映らない程の小さな『岩』だ。そんな孤島だけに常に波が磯を洗い、その多くが切り立った岩場で構成されているため、立ち位置もかなり限られ、磯全面がノリ状のぬめりに覆われツルツルと滑ってしまう。ここでは足場確保のためにドンゴロスをカーペットのように敷くことが常識とされている。無論、フェルトピンシューズなど装具の準備を怠ってはいけない。
一見すると普通の磯だが、
一面ノリ状のぬめりが覆っている
10年以上男女群島に通っている村田も、過去に3度、肥前鳥島チャレンジを計画はしているものの、海況が悪く一度も上がれたことがないという。それほどに荒れやすく、足場が低く、波に弱い釣り場なのである。乗れただけで奇跡、そんな秘境が日本にもまだある。村田にとって念願かない初挑戦となった今回。ただ渡礁できたとはいえ、朝マズメは暴風に雨のおまけつきで、海況が悪かった。いつ緊急撤収になってもおかしくない状況が続き、常に緊張感が漂っていた。そんな緊張感を助長するかのように島の周りは強烈な潮が流れている。一般人の感覚では危険極まりのない状況でありながら、村田の気持ちは、これ以上ないシチュエーションに昂っていたのが、端から見ていても伝わってきた。
村田裕樹が繰り広げる
ヘビージグの釣り
「風も強いし足場も高いからトップは引けそうにないっちゃね」
ここ肥前鳥島ではカンパチをメインターゲットに据えていた。プロトのショアキャスティングロッド98XH+に380gのヘビージグを結び釣りを始めた。村田はメインラインPE6号にナイロンリーダー100lb、バイトリーダーにフロロカーボンの130lbとセオリーより太いシステムで挑んでいた。
「どこのフィールドでも自分はこんなタックルっちゃね! 重たいジグの方が手前まで底を切らずに探れるし、ボリュームがあるほうが魚にアピールもできると思ってるっちゃ」
一般には可能な限り細いライン、軽いジグを使う方が喰いもいいと思う人も多い中で、衝撃的なタックルセッティングだった。
「確かに細いライン(リーダー)を使えば喰いは良いが100g以下のジグは投げないし、掛けたら獲れる確率が高い方がいいから太いラインを使う。」
そんな話をしてくれる中、風も少しおさまり、満潮から潮が下げ始めると釣り座正面の潮も流れ出した。
このポイントは手前から水深が60m近いディープエリアだ。釣り座の左手に足元から沖に向かって馬の背状のシモリがはしり、足元は波に削られて水中でハングをしている。潮は左からの流れが馬の背状のシモリに当たり、足元から20m沖のラインで潮が反転し渦巻いている。その反転流を狙うかのように村田氏はジグを操作する。潮にジグを乗せて反転流にジグを送り込む。ただむやみに投げているわけでないことが見てとれる。
肥前鳥島は潮が動き出すと激流になる
ショアジギングというとジグのシャクリ方は実に多様であるが、村田氏は常に同じようにジグを動かしていた。1シャクリでハンドル1回転させてジグをショートにふわふわと独特のリズムで動かす。いわゆるワンピッチジャークに変わりはないのだが如何せん単調かつ独特なのだ。こんな単純奇怪な動かし方のみで魚は喰って来るのかと思っていたが、むしろ長年の経験から導き出された唯一の答えなのであろう。そんなのは杞憂とばかりに魚からの反応があった。
「アタった!!」
「また、アタった!!」
アタリが連続する連続。そうこうしているうちにヒット。先ずは1匹目。そして2匹目と小型ながらもカンパチを釣り上げた。とりあえず釣果を得たことで安堵した村田氏。サイズアップを目指してキープキャスト。刻一刻と変化する海の状況を感じるためにも投げつける事が大切と話す。
ついに良型のカンパチが
村田のジグに襲い掛かった
「デカいッ!!カンパチだ!!」
プロトロッドの98XH+が絞り込まれる。
ヒットした瞬間から、根に向かって全力で突っ込んでいくカンパチ。根に突っ込まれまいと村田氏も必死にリールを巻く。ポンピングの時に下手に糸を弛ませてしまうとその一瞬で根に走られてしまう。それゆえ魚を走らせまいと常にリールを巻き続けることが、最大の攻撃になることは覚えておきたい。
なかなか魚の姿は見えないが、海面に突き刺さるラインは足元まで寄って来た。最後の最後で水面に顔を出したのは8kgクラスのカンパチだった。観念したかにみえた。後はランディングという所まで寄せたのだが、カンパチも釣られまいと最後の抵抗をみせて足元のオーバーハングの下に消えていく。ラインが瀬に触れそうと思った瞬間にはラインブレイクしてしまった。
「ヒラマサは根に沿って走るけど、カンパチは根魚のように根に向かって突っこんでいく。それでいて回遊魚特有のスピード感、体力があるから手強い。しかも常に頭を下にして抵抗し泳ぐから手前まで寄ってきても手前のハングに向かって突っ込む。全く油断ができない。最高に手強い相手だ」
肥前鳥島ではあまりの小ささから、この天候では夜を明かすことはできない。日が暮れる前には男女群島に移動しなければならなかった。渡船が夕マズメを前に迎えに来てしまった。後ろ髪を引かれる思いで“特級磯“の肥前鳥島を後にした。
良型のカンパチがヒットして、
プロトロッドが良い曲がりを見せる。
男女群島の花形“キハダマグロ”を
ショアから狙う
肥前鳥島から船で走ること40分。男女群島にやってきた。ここではターゲットをガラッと変え、カンパチではなくキハダマグロを狙うことにした。そこで村田氏が選んだポイントは女島とハナグリ島の間にある水道の入口付近のポイントだ。島と島の間を川のように潮が流れている。潮がトップスピードになると釣りが成立しない程流れてしまう。そうなったら潮が緩むのを待つしかない。このポイントは潮の干満とは関係なく潮が飛んだり、緩んだりを繰り返す。それに合わせて潮目も近づいたり、遠のいたりしていた。
女島との間の水道、潮が走りだすと
釣りにならない激流になる。
村田はマグロを狙うためプロトロッドの100XHに120mm程の小型のポッパーをセットした。マグロは潮目に沿って回遊するので潮目が近づききらないような状況でもしっかりと飛距離が出せて、かつ小型のポッパーがいいと村田は話す。
「ここのポイントはマグロの回遊が期待できるポイントだが、今年は青物もマグロも状況が良くないからワンチャンスがあればなあ..。」
沖に見える潮目、これが寄ってきたらチャンスだ。
射程圏外のはるか沖の潮目で300kg近いシロカワカジキや60kgはあるだろうマグロが跳ねたりするのは見えるが、潮目が遠くなかなか寄ってこずチャンスがなかなか訪れない。
「あの潮目が近づけばチャンスがありそうなんちゃけどな。」
こちらをあざ笑うかのように遥か沖でマグロが跳ねている。だが、一向に潮目が寄ってくる気配がない。
「もうダメだ!休憩!休憩!!」
ダメな時は息抜きも必要だ。
と完全に匙を投げたように休憩モードに入っている。しかし、潮目が近づいた瞬間、村田がおもむろに立ち上がりルアーを投げた。
「さっき近くでマグロが跳ねたっちゃね!!」
休んでいるように見えて実は海の様子をジッと観察していたのだ。狙いをすましたようにギリギリ射程圏内に入った潮目に向かってフルキャスト。
ポッパーを1アクション、2アクション..
潮目を抜けるかどうかの位置で魚がチェイスをして来た。そして、水柱を上げてルアーにアタックして来た!!
プロトロッドの100XHが曲がりこむ。しかし、途中で違和感が。上がってきたのは1m弱のシイラだった。ここが男女群島でなければ嬉しいターゲットだが村田氏が狙っているのはマグロなのだ。
「シイラに混じってマグロが回遊している事も多々あるからまだチャンスはある」
そう話す村田。しかし、虚しくもこの後にチャンスが訪れる事はなかった。
本命でないが、引きを楽しめるゲストだ。
最終日。回収は朝8:00頃と聞いていた。現時刻は4:00。チャンスはあと4時間しか残されていない。真っ暗な夜から微かに空が白み始めたころ……。
「昨日のシイラがヒットした潮が、もう一度近づいてきたらマグロのチャンスがあるかな」
日中はポッパーを使い、魚を誘い出していたが、薄暗い時間帯はしっかりと喰わせることを意識してミノーを選択。沖の潮目が近づいてきた時に竿が絞り込まれ、ラインが横に突っ走る。この引きはマグロだ!竿のパワーをいかしてグイグイと魚を寄せてくる。最終日の朝マズメという最後のチャンスにしっかりとメインターゲットである7kg程のマグロをキャッチした。
「最高!!」
海況も青物の回遊も悪い。そんな、なかなかチャンスが訪れない厳しい状況での最後のチャンスを掴んだのだ。その後天候が悪化する懸念があるとのことで予定の8:00より早目に渡船が迎えに来た。
粘って獲ったキハダマグロは嬉しい一匹だ。
長い夜のもうひとつの
ターゲット幻のクエを狙う
さて、話は初日の夜に戻る。日も陰りルアーを見ることも難しくなってきた。普通ならルアーマンはここで釣りを止めて夕食や寝るための準備に入るところだが、せっかく男女群島まできたのだ。ここで釣りをやめてしまうのでは勿体ない。手持無沙汰な夜にはスタンディングスタイルでクエを狙ってみると面白いらしい。
ルアーマンがいきなり超本格的な底物タックル一式を揃えるのは難易度も敷居も高い。そこで昼の青物タックルのリールやラインなどを流用できるがま磯我夢者アルティメイト 南方強者S4.8mなどの大物用の磯竿タックルでクエと勝負してみてはどうだろうか?
そんなに簡単な流用タックルでクエが狙えるのかと疑問に思われる方も多いと思う。しかし、忘れてはならない、ここは夢の特級磯”男女群島”だという事だ。仕掛けはメインラインPE6号に瀬ズレワイヤー代わりのPE20号を10mほど結ぶ。その先にワイヤーハリスを付け、管付きクエ40号を結ぶ。捨て糸にはナイロン24号の先にフロロ10号を付けて錘は50号を選択。いわゆる胴付き仕掛けだ。付けエサはサバの一本付け。
クエというと30㎏、40㎏を超えるようなモンスターを想像される方も多いだろうが、日本屈指の魚影を誇る男女群島であるが、一方で5~10㎏がアベレージサイズで、大型でもせいぜい15㎏ほどという不思議な現実がある。だから、必ずしも本格的なタックルではなくても釣りが成立するのだという。
LEHL251WRの赤色ライトは明るいが魚へは
プレッシャーをあたえずらい
先ずはエサ取りのお腹を満たしつつ、匂いで本命のクエを誘うためにイワシを砕いて定期的に撒く。しかし、期待とは裏腹に竿先に現れるのはエサ取りの小突くようなアタリだけだった。アタリが止まって仕掛けを回収するとエサのサバが骨だけになって返ってくる。
数時間、エサを付け替えては打ち込んでを続けていた。転機を迎えたのが満潮を過ぎ潮が動き出した21時をまわったタイミングだ。ピタリとエサ取りのアタリが止まった。
「クエが近くにいる」
その瞬間、真っ暗な中
「喰った!!」
という村田氏の声が響く。
クエの強烈な引きに耐えるように腰を下ろしてファイトを始めた。満月のように弧を描き、水面に竿先が突き刺さる。しかし、じわじわとどこまでも尽きることのない圧倒的な粘り腰で魚が少しづつ浮いてくる。水面に浮いたのは7kgを超える本命のクエだった。男女群島初夜にして上出来の釣果だ。
幻の魚が高確率で釣れるのも男女群島の魅力だ
蛇足ながら、翌日の晩、同行していた筆者もエサ取りのアタリが静まったタイミングで我夢者南方強者のベイトタイプを使って同サイズのクエを獲ることができた。幻のクエを幻で終わらせない男女群島のすごさをまざまざと見せつけられた夜だった。