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狙えロクマル トーナメンターが挑む巨チヌ挑戦記

タモ網に収まった巨大チヌを笑顔で掲げる沖永 タモ網に収まった巨大チヌを笑顔で掲げる沖永

沖永吉広(おきなが よしひろ)

G杯争奪全日本がま磯(チヌ)選手権2勝をはじめ、数々のトーナメントにおける全国大会常連のトーナメンター。
チヌ釣りの本場、広島で腕を磨く。棒ウキを主軸に、急流・浅瀬・浅ダナの攻略が得意。
これまでの自己記録は54㎝。

磯に横たわるチヌ 磯に横たわるチヌ

チヌ師にとってロクマルは夢のまた夢

「楽しみすぎて眠れませんでした」

朝四時半、満面の笑みで駐車場にあらわれたのは、沖永吉広。G杯チヌ釣り選手権2勝をはじめ、輝かしい戦績を誇る最強の現役トーナメンターである。 およそチヌは釣り飽きているくらいの人物に違いない。
それが釣りの前日に寝むれないほどに楽しみだというのである。よほど釣りが好きなのだろう。ただし、沖永が楽しみなのには訳がある。

「プライベートのチヌ釣りは年に何度もないんですよ。まして、大物狙いだなんて生まれて初めてじゃないですかね」

チヌのハイシーズンといえば、4月、5月の乗っ込みになるのだが、この時期、ほぼすべての週末が大会とイベントで埋まっているのだという。

「だからといって、大物に興味がないわけではないですから。今回は、貴重な機会をいただいたんで、まずは自己記録の54㎝を更新したいですし、夢はロクマルを獲ることですね」

チヌ師にとって、ロクマルは特別な存在である。

「口閉じ・尾開きで60.0㎝を超えるチヌを釣るというのは、チヌ師にとっての憧れですね。今の現役世代だと、何人もはいないんじゃないですかね、自己記録がロクマルを超えている人は」

58㎝、59㎝でも難しいが、あと1㎝、あと5㎜が出ない。

「50㎝オーバーを数釣り出来るような場所はありますが、その延長にロクマルがいるかといわれれば、ほとんどいないでしょうね。ゼロではないですが狙っては獲れない。本当にでかいチヌを狙える場所は全国でも限定的です」

そんな沖永が今回、チャレンジに選んだのは、愛媛県宇和島市にある小さな湾。真珠の養殖が盛んな地域だ。

「今回、お世話になるうえむら渡船さんは、普段、グレ釣り場として有名な御五神島(おいつかみじま)に渡しているんですが、4月5月は真珠の養殖棚が浮かび、船着き場からほど近い地磯のチヌ釣り場への渡船がメインになります」

遠方の巨チヌ師から懇願され、始めたという近場のチヌ釣り渡船は、4年ほど前からやっているというから、歴史は非常に浅いが、早くもロクマルの実績が出ているという。

「岡山のチームだったと思いますが、熱心に開拓して情報を広めてくれているんですね。いま、日本で一番、ホットなロクマル釣り場がここです。僕自身は初めてですが、仲間はよく通っていますよ」

沖永の代名詞ともいえる
遠矢ウキという名の棒ウキ

チヌ歴25年を誇る沖永が、全国屈指のトーナメンターとなったターニングポイントがある。
15年前、ひとつのウキとの出会いが、どうしても超えることのできなかった壁を、ようやく越えるきっかけとなった。それが棒ウキ。

遠矢ウキを手に持つ沖永

「棒ウキというか、遠矢ウキですね。遠矢ウキとの出会いが、G杯を獲るきっかけにもなったし、いまではもう欠かせない存在ですね」

以来、沖永といえば遠矢ウキというくらいに知れ渡って行き、トーナメンターに棒ウキを浸透させる大きなきっかけにもなった。ところで遠矢ウキの1日の使用比率はどれくらいなのだろう。

「100%。といいたいところですが、ボトムに餌を流さずにウキを底においておきたいとか、まれに円錐ウキの出番もあります。本当に厳しくて、何をすればいいかわからないようなときに使うこともあるので、10個くらいは円錐ウキも持ち込んでますよ。逆にいうと98%は遠矢ウキでやりますね。潮が速かろうが遅かろうが、深かろうが浅かろうが、ほとんどの状況を遠矢ウキでカバーできます」

遠矢ウキ、棒ウキにはどんなメリットがあるのだろうか?

「一言でいえば、感度。そして、使っていて最高に楽しい事」

チヌが喰いついたときに、そのアタリを逃さない?

「チヌでいえば、ほかのどんなウキよりも、アタリを感じ取る能力は高いです。ただ、単純にアタリをとるというよりは、事前に前アタリを察知したり、エサ取りや潮の状況を見極めたり、情報収集能力の高さですよね。表現力の豊かさというか」

感度がもたらす情報量の多さ。より精度の高い情報があれば分析して、次の一手が打てる。限られた時間の中で最大限の釣果が求められるトーナメンターには、最大限のアドバンテージになることは想像に難くない。

遠矢ウキを手に持つ沖永

沖永のメインロッドとなった
アテンダーⅢについて

トーナメンターとして沖永が選ぶチヌ竿は0.6号。

「チヌ競技シリーズが好きでしたね。
いろいろ使い比べていますが、一番しっくりくるのが、チヌ競技Ⅲだった」

06-53と記載されたアテンダーⅢのボディ 06-53と記載されたアテンダーⅢのボディ

それが、アテンダーⅢに出会ってメインロッドを入れ替えることになる。

「アテンダーシリーズというのは、正直、曲がりを楽しむというか、ファイトに重きを置いた竿かな、と、うがった目で見ていました。それが撮影で触らせてもらって、『あ、コレっ!』って、なりましたね」

お世辞ではなく、テスターとしての使命感でもなく、トップトーナメンター沖永が勝利をもぎ取るために選んだ竿がアテンダーⅢ06₋53。

「もう、あわてて釣具屋さんに注文しちゃいましたよ。これ以上の竿はないと思って。かなり強めのテンションを掛けても魚が暴れない上に、釣り人側の負担も少ないんです。だから、ファイト時間を短縮できる分、時合いにたたみかけられます。それよりなにより振り込みの精度と取り回しのよさですよね。胴調子のはずなのに、先調子の竿とそん色ないです」

できるだけ短いファイト時間でやり取りを終わらせるために選んだのが、0.6号。1号ではだめなのだろうか?

「竿の号数が強くなるほど、必要なハリスが太くなる。竿が柔軟であるほどハリスが伸びなくて済む。僕は0.6号がしっくりきます」

ハリスが伸びれば、その分、細くなり、傷やこすれに弱くなる。竿が柔らかければ、ハリスの伸びを押さえ、傷をカバーして取り込める

「限られた時間で競うトーナメントでは、手返しが命。かつ、細ハリスは外せないですから、0号でも1号でもなく、0.6号が僕のスタイルにはマストです」

棒ウキ、0.6号のアテンダーⅢ、1.5号程度の細ハリス、0.8~1号の小バリ。これが沖永のトーナメントスタイルになる。

小鈎・細ハリスがトーナメント沖永スタイルの要

通常、沖永の使うチヌ鈎は小さい。一番小さいものだけを使うといった方がいいくらいで、使うのは0.8号だ。細軸小鈎な0.8号は、口に含んだときの違和感がなく、飲み込まれやすい。もちろん、鈎の重さが軽い分、自然に落下したり、潮に乗せたりしやすい。

「ずいぶん、大きく見えますね」

そういいながら、ロクマル用に4号の鈎を結ぶ沖永。それでも事前の話では5号で行く予定だったから、ひとサイズ小さい。一般的なチヌ釣りではむしろ標準サイズではないだろうか。それでも、沖永にとってはほぼ出番のない大鈎なのである。

「水のキレイさが尋常ではないですよね。これほど透明度が高い海でチヌ釣りをするケースは、なかったんじゃないですかね。しかも、これでも雨の影響で少し濁ってるっていってましたから」

ハリスは2号。ロクマルのチヌを狙う巨チヌ師ともなると3号は当たり前。5号を使う事さえあるようだが、ひとまず2号を張った。

「僕にとっては、かなり太いですけどね。普段は1.5号がメインです」

それほどチヌはハリスを見分けるのだろうか。

「ハリス自体を見分けるかとか、嫌がるかといわれれば、たしかに太いハリスでも釣れるわけで、チヌ釣りは太いハリスでも成立はするんですよ。でも、自分の理想の流し方、なじみ方というのは、細いハリスでしかできない。太いハリスと細いハリスなら、細いハリスの方が、アタリの数は多いです。競技の現場で何度も何年も比べていますから、データ量が違います」

右手側へと引く沖永に合わせ、大きく弧を描く竿

振り込んだウキはしっかり飛んでいるようには見えた。

「うーん、でも、いつものようには飛ばないですね」

常用する1.5号から巨チヌ用に2号の道糸を張っている分、飛距離にもラインさばきにも影響がある様子。竿はアテンダーⅢの1号を手にした。

「どの釣り場も沖に真珠棚があるんで、止めきれずに切られるという話を聞いています。
糸を全く出さずにロクマルを止めるなら、1号以上じゃないと難しいと思うんですよ」

ただ、1号はいつもの竿よりわずかに重く強いので、0.6号とは感覚にズレがあるようで、微細な差をも感じ取るトーナメンターには、違和感があるようだ。

釣場に立って3投目でまさかの
自己記録更新

立った釣り場は岬まわりの地磯。先端部はある程度、水深があり10m以上ありそうだ。

「水深が深くて釣りづらいですね。どちらかといえば、5mとか浅い釣り場の方が得意です」

底をとるか、中層を狙うか。さぐりさぐりの1投目は、中層よりちょっと下、竿1本半にタナをあわせた。その3投目、生命観のある動きをとらえ、ウキのトップが水中に沈みこんだところで、アワセが決まった。

「そんなに大きな魚じゃないと思いますよ。チヌじゃ、ないんじゃない、かな」

岬まわりの地磯に立ち、竿を引く沖永 岬まわりの地磯に立ち、竿を引く沖永
体を後方に反り、チヌとやり取りする沖永と、合わせて大きな弧を描くアテンダーⅢ

岸向きの進路をとり、すんなりと手前に寄って来たように見えた。

「あぁ、いや、チヌですね。ほら、ウキが水面から出てきたでしょう。 これはチヌの証拠のひとつ。40㎝くらいですかね」

そんなに大きくはないんじゃないかとタカをくくっていたが、高い透明度の海でギラリとひるがえした巨躯に目を見開き、寡黙になる沖永。
どこまでも曲がり込み獲物の体力を奪い去るアテンダーⅢという竿のポテンシャルの高さが、百戦錬磨のトーナメンターを惑わせた。
釣り人との距離が近くなり、岸に寄せられたことで、チヌも本気になった。岩に向かってあらがい、あるいは沖に疾走する。

だが、たしかに空気を吸わせるまでには至らないが、危なげがない。
危うさがないのである。
そうして、タモに吸い込まれたチヌがでかい。

タモ網を掲げ、収まったチヌを笑顔で見せる沖永 タモ網を掲げ、収まったチヌを笑顔で見せる沖永

「あぁ、50㎝はありますね」

……。沖永はそういうが、そう、はっきりいえば50㎝は確かに超えている。
しかし、メジャーをあてるまでもなく、50㎝がどうのというサイズではないのである。文句なしにでかい。

「58、は、ないですね、57㎝か」

尻尾の先はゆうに55㎝を超えているのである。

笑顔でチヌを手に持つ沖永

「自己記録、更新、しちゃいましたね」

さぐりさぐりの3投目。まだ、パターンもセッティングも出ていないスタートの仕掛と釣りで、気持ちの準備ができていないときに、よもや57㎝が出た。出てしまった。

「すごいとこに来ちゃいましたね」

ロクマルの穴場といえど、年に何枚も上がるものではない。50㎝は珍しくないが、55㎝を超えるものは珍しい。

ところが。ところがである。
その後、沈黙を守り、撮影を断念せざるをえない雨が降るまでに竿を曲げたのは、イサキとカワハギくらいのものであった。その間、8時間。

「びっくりするくらい何もありませんね。考え付く限りのあらゆる手を尽くしたつもりですが、なんというか感触がないというか、釣れるイメージがわかないですね。どうにもできない。魚が根本的に目の前にいないんじゃないかと思うくらい雰囲気がないですね」

オモリを足したり引いたり、ウキを替え、餌は1投ごとに変えて、深くしたり、浅くしたり。だが、そもそも小手先の技術でカバーできるような手ごたえがないのである。魚っ気がない。居ついていないし、回遊してもこなかったのではないだろうか。

「まぁ、聞いていた話なんで。アタリは、あってもせいぜい1時間に1回。または、朝・夕のまずめに限られる、と」

だから、夕方まで粘りたかったのだが、大雨で撮影機材を壊さないように、その楽しみは翌日に持ち越すことにした。

「朝から撒き続けた餌が、夕方に効き、はじめてロクマルが回ってくるんだそうです。すごい世界ですよね。瀬戸内の釣り場では考えられない」

チヌが釣れるポイントは底が白い場所

翌日は別の場所に上がった。最近、実績のある場所だという。干満を無視すれば、水深はだいたい7mそこそこで、前日の釣り場よりは浅い。

「僕はこっちの方が攻めやすいですね。釣れないときに手を変えやすい。浅いほうが得意です。答えを導きだしやすいんですよ」

砂浜が隣接するというか、砂浜と砂浜の間に突き出た小磯で足場も狭い。

「駆け上がりの色が変わるあたりが実績のある場所だと聞いていますが、たしかに地面の白い場所があって、いい場所ですよね」

白い場所?

「あぁ、えっと、岩場じゃない砂地ですね。餌が目立つんで釣れやすい。釣れ方が早いというか」

満潮の潮が高い時間からのスタートし、ここから昼にかけて下げ潮が続き、12時間後の夕まずめにはふたたび満潮で潮位が高くなる。

この日は、アテンダーⅢ06⁻53でスタートした。

「アテンダーⅢなら0.6号で、ロクマルでも走りを止めきれるんじゃないですかね。まぁ、ダメだったら号数を上げます。それよりも感覚のズレが嫌なんで、普段、使い慣れた0.6号で今日はいってみます」

振り込みやラインメンディング、ファイトテンション、アワセの強さなど、慣れ親しんだ0.6号の方が掛けるまでのアドバンテージが高いと判断したようだ。

磯に立ち、マキ餌をする沖永

前日の感触から、黄色の練り餌をベースにオキアミイエロー、オキアミのつけ餌のほか、丸エビイエローと茶色の練り餌、オキアミのハードにボイルまで用意した。

「なにせ、でかい練り餌がいいんだ、という話は聞いていました。そうですね、親指くらいの大きさでちょうどいいくらい。だから、練り餌を10袋は持って来いと。
そのうえで、前日の感触的にはボイルが効くんじゃないかなと思いました。餌の選択肢は多くないと、状況を攻略しきれないですね」

目立たせたい、取られにくい、喰い込みやすい、素早く落ちる、スローに落ちるといった特性を、その時々の状況に応じて変えていく。
それくらいサシ餌には気を配っている。

沖永が用意した餌。左から茶色の練り餌、黄色の練り餌、オキアミイエロー、オキアミ。 沖永が用意した餌。左から茶色の練り餌、黄色の練り餌、オキアミイエロー、オキアミ。

仕掛のなじみをG5のオモリで
調整する沖永の技

沖永が着用しているベストにぶら下がるオモリ入れ 沖永が着用しているベストにぶら下がるオモリ入れ

沖永は1投として同じ仕掛けを投入しない、といっても過言ではないほど、毎回、毎投、手を加えている。
一番、こまめに変えるのは餌であるが、ガン玉の数もこまめに変えている。その変え方が独特である。

「僕はガン玉のG5しか使わないですね。ほかのオモリはもってきてはいますが、ほぼ使わないです」

ベストからぶら下げたオモリ入れにはまったく同じ大きさの小さなガン玉だけがつまっている。

「ベースはG5を3個打つ。だいたいハリスの結びめに1個打って、そこから等間隔に1個ずつ打つ感じですね」

必ずしも流れの強さにあわせてガン玉を足し引きするわけではないが、潮が緩ければすべてのガン玉を外してしまうこともあるし、逆に潮が走るときや素早くなじませたいときには、10個打つこともある。

「ちょっと見られると恥ずかしいんですが、オモリの重さをG5しか使わないと決めてしまう事でオモリ使いに開眼しました」

これを気分で足し引きする。

「違いますね。仕掛の理想的な角度というのがあって、まず、ウキの真下にぶら下がるようではだめ。ある程度の角度が欲しい」

ウキから先の糸に角度が必要。沖永はウキを中心に半径50㎝の円を描き、その円の縁に餌が来るようにするのが理想のハリス角度と説明する。
流れが強くふけ上がるようなら、オモリを足して角度を落ち着かせ、逆に仕掛が立ちすぎるようなら、オモリを引いてラインをたなびかせる。

「仕掛自体の重さを重くしてなじみをよくしたり。オモリ使いは奥が深いですよ」 ちなみに遠矢ウキは0という表記でも3Bを背負えるくらいの余浮力がある。

2時間に1匹のハイペースで、年なし3枚が飛び出す爆釣劇!!?

餌、ウキ、オモリのほかに、ウキ止め糸の位置も当然調整の対象になる。

「僕の持っている基準では、餌取りが喰うようならタナはどんどん上げていく。
チヌは餌取りよりも強いから、チヌが喰うまでどんどんタナを上げますね」

海面に垂直に浮く遠矢ウキ 海面に垂直に浮く遠矢ウキ

投入したウキが立つものの、ボディとトップの境目にある黒い帯がいつまでたっても海面に没しない。

「これは僕が設定したタナまで餌が落ちる前に、魚が餌に触ってい、、入った入った」

タモに収まったチヌを掲げる沖永

朝からグレ、アイゴ、アイゴと続き、この餌取りをいかにかわすか、試行錯誤していたが、その群れを押しのけてチヌが喰ってきた。52㎝。

これまでウキに対してぴしゃりと決まる撒き餌ワークにほれぼれしていたのだが、長丁場の釣りに疲れたのだろうか、ウキからずいぶん外れた左側にばかり撒き餌が着水するようになった。

「違いますよ。いま、風が吹いていて上潮だけが左に滑っているような状況なんですね。だから、仕掛がなじんだ頃に、撒き餌と同調する場所にマキ餌を打っているんです」

上潮だけが滑っているのはなぜわかるのだろうか。

「ウキが流れる方向は見てわかりますよね。それは表層の流れです。撒き餌が水中に沈んでいく様子も白い視認性の高い撒き餌と偏光グラスがあれば中層の流れもわかります。その撒き餌は比較的まっすぐ沈んでいるんですね。明らかにウキと撒き餌の流れ方が違う」

ウキはどんどん左に流される。ウキに撒き餌をかぶせたのでは、仕掛けがなじむころにはサシ餌と撒き餌はずいぶんはなれてしまう。

「もう、撒き餌とつけ餌の同調は絶対条件ですから」

そうなると、一時的に同調しても、すぐに離れてしまうのではないだろうか。

「そうですね。待てば待つほどつけ餌と撒き餌が離れてしまいますから、一瞬の勝負ですよね。手返しよくどんどんやっていくしかない」

目安は1分。5分も10分も待つようなことはそもそも意味がない。アタリが無くても、餌をとられなくても長く待つことはない。基本的には打ち返し、そうでなければ撒き餌を追加で入れることもなくはない。
その追加の撒き餌をウキとはずいぶん離れた位置に入れていることもあった。これはどんな計算があるのだろうか。

「次の1投で入れる場所に事前に入れておく。同じ場所に仕掛を入れ続けると、餌取りが一か所に集中してしまって、チヌがなかなか喰わない。だから、魚を動かしたり、餌取りの量を分離したりする」

干潮潮どまりでアタリが遠のき、上げ潮が効きだすまでチャンスがないのかと思いきや、餌取りが静かになったタイミングで54㎝。

タモ網を右手に持ち、左手で竿を操作する沖永 釣り上げたチヌを両手に持つ沖永

「年なしに見慣れてきてしまってますが、これ、僕の旧自己記録なんですよね」

ここから上げ潮が走り出すと餌取りがあわただしくなるのかと思いきや、餌取り自体は沈黙した。

「あれほどうるさかったアイゴがいなくなりましたね。チヌの時合いでしょう」

タモに収まったチヌを掲げ、笑顔を見せる沖永 タモに収まったチヌを掲げ、笑顔を見せる沖永

そうして51㎝を追加した。そのほかに、40㎝のチヌが2枚、年なしの合間に顔を見せた。前日の釣り場とは打って変わり、餌取りも元気だが、1日中、チヌの活性がある。あるいは1時間に1回程度のペースで回遊がある。こうなれば沖永は強い。
そうして、いよいよ夕まづめが近づき、ロクマルの魚信が伝わるのをいまかいまかと見守る撮影陣。

「喰わなかった、ですね。残念です」

16時40分、最後の一投を終え、沖永が振り返る。連日、チヌ師のハリスをちぎりまくった巨チヌポイントだったが、さすがにいじめられすぎたのだろうか。
この日は、怪物級が餌を口にすることはなかった。

「ロクマルチヌは夢ですからね。そう簡単に釣れてしまってはダメですよ。また、来年、チャレンジしたいですね。
来年といわず、いつか、きっと手にするまでは」