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厳冬 桧原湖ワカサギ徹底攻略 厳冬 桧原湖ワカサギ徹底攻略

齋藤誠司 写真

がまかつフィールドテスター

齋藤 誠司

ワカサギ、渓流、鮎が得意ながまかつフィールドテスター。鮎釣りシーズンが終了するとワカサギ釣りに没頭し、晩秋は中禅寺湖、冬は桧原湖などで腕を磨く。厳寒期に微細なアタリをとる技術には定評がある。栃木県在住。NFS所属。

冬の桧原湖の景色

hibarako

氷上穴釣りワカサギの聖地 福島県桧原湖

ワカサギ釣り師にとって、聖地ともいえる特別な釣り場のひとつが桧原湖。福島県にあるこの湖は、ワカサギ師なら誰もが知る湖である一方、難しい釣り場として認知されている。とはいえ、難しければ難しいほど燃えるのが釣り師の性。難しいからこそ攻略したいと思う年間8万人もの人が桧原詣でに通うのである。

桧原湖の釣期は11月~3月の冬季に限定される。例年であれば1月中旬には湖の全面が氷で閉ざされ、いわゆる『ワカサギ釣り』が楽しめる。この釣りをしない人でも、ワカサギ釣りといえば、氷に穴をあけて釣る釣りを思い浮かべるだろう。そんな穴釣りを楽しめる湖の中でもスノーモービルを持ち込んで、各々の釣り場を目指すスタイルを楽しめるのは、全国でも桧原湖くらいのものだろう。

昨今のワカサギブームによって、関東・関西に釣り場が広がったことで氷の張らない釣り場が多くなりつつある。それでも氷上のワカサギ釣りというものは、やはり特別なものであるに違いない。 温暖化というものが進行していることに疑う余地はない。残念なことに、桧原湖でさえ氷がはらない年もある。

氷上に置かれた、釣り上げた多数のワカサギ
仕掛けに喰いつき、水面へと釣り上げられたワカサギ

2023~2024年は、まさにその氷が張らない年となった。

「桧原湖は薄く張った氷の上に、雪がどさっと積もることで、乗れるようになるタイプの湖。2024年は暖かかったのと、雪の降るタイミングがあわなかったことで氷上の釣りが解禁されることはなかった。というか、氷が張らなかったですね」

12月になると桧原湖詣でを開始するワカサギ釣り師・齋藤誠司はいう。ボートにはボートの、屋形船には屋形船の面白さがあるが、なんといっても、氷に穴をあけて釣るワカサギの趣きにかなうものはない。

禁漁目前の3月末、湖の周辺には雪が残っているものの、湖面に氷はない。物憂げな表情で湖面に目をやる齋藤だったが、自然相手ではどうしようもない。氷が張らない場合には、湖上に設置された施設でのワカサギ釣りが可能になる。趣はともかく、これはこれで快適には違いない。

「水温も限界まで下がるわけですし、ワカサギも秋に比べて活発に動き、激しいアタリを出す時期ではない。本当に小さい竿先が震えたかどうかわからないくらいのアタリを見極めてアタリを出すのが醍醐味ですよ。こういう状況になると手感度頼りのリズムで釣るスタイルではなく、穂先に出るアタリや違和感を目で見て釣るスタイルに分があると僕は思います」

桧原湖の立て看板と、雪道を進み桧原湖へと向かう釣り人の列

激戦区のシビアな状況を打開するための仕掛『桧原湖Ⅱ』

ケースに収められた多種類の穂先

ワカサギに用いられる扁平でショートなグラスソリッド竿は、いまやワカサギ竿の代名詞となった。その扁平な竿もわずかとはいえ長さを持たせることで、微細な荷重変化を感じ取れるようにしたり、グラスとは別の素材を先端に足し、目感度を高めたり、バットにカーボンの筒を設けることで、軽量にしたりと年々、進化をしている。

あるいは、電動リール。電動リールの存在がワカサギブームの牽引役であるのは間違いない。その電動リールも、外付けバッテリーにすることで本体から電池の重さを抜き、軽量化をおしすすめる動きがある。手の平に込める力が少なければ少ないほど、手の感覚が研ぎ澄まされる。ゆえに軽量化が絶対的な正義となっている。

「それもこれもワカサギの小型化が進んでいるというか、本当に小さな当歳魚が増えていて、その魚を釣らなければならないのが要因のひとつ。だから、仕掛も進化していく必要がある」

竿置き台に置かれた竿に添えられた左手。足元には、電動リールに繋がっている外付けバッテリーが置かれている。
指先でつまみ、水平にピンと張ったラインの仕掛けに喰いついているワカサギ

初代の桧原湖仕掛が登場した当時は1.5号程度の鈎が主流だったが、いまは0.5号や0.8号といった1号以下の鈎の使用頻度が高くなっている。齋藤がおもむろに取り出した仕掛は、桧原湖の名を冠した『桧原湖Ⅱ』。現代のワカサギシーンにマッチするようファインチューンを施したものだ。

「もちろん、桧原湖でしか使えない仕掛ではなく、桧原湖の気難しいワカサギでさえ攻略できるものだと思ってもらえばいい。全国、どこでも通用する仕掛。地元の大先輩のこだわりを凝縮して、ようやく形になった意欲作ですよね」

仕掛けに喰いついているワカサギの頭部 並べられた、桧原湖Ⅱ 各号数パッケージ

どういった特徴や違いがあるのだろうか。

「まずはハリスの細さですね。前作の0.2号でも細いほうだと思いますが、檜原湖Ⅱでは0.15号になりました」

桧原湖で釣れる仕掛の特徴はなんといってもハリスの細さ。ワカサギの聖地・桧原湖ということは、裏を返せば、それだけ人が多いということになる。そのプレッシャーゆえ、なのかはわからないが、年間8万人ものワカサギ師がおとずれる湖で出された結論が、細ハリスである。湖の透明度も関係しているのだろう。

「ハリスが細いということで、喰わせる能力はずば抜けていますが、注意点が一つあります。当然、切れやすいわけです。もちろん、片手外しもしますが、鈎外しを使っても外します。あまり乱暴にやってしまうと、切れる可能性が出てきます」

鈎号数は1、1.5、2号の3サイズだったが、0.5、1、1.5号の3サイズにダウンサイジング。

「メインは、0.5号と1号の使い分けになるでしょうね、今の時代は」

鈎数も5本から6本になり、カバーできるタナの範囲が広がった。

「このハリスとハリスの間隔やハリスの長さにもこだわりがあって、ちょっと変えると釣れ方が変わるんですよね。だからといって、絶対の正解というものはないから、調整が難しい。桧原湖Ⅱは絶妙な鈎間隔に仕上がってますよ」

魚影がまばらで
1匹を拾う展開ながら淡々と数を重ねる

2本の竿をセットし、仕掛を投入する。どのタナにセットするのだろう。

「一番、重い水は4℃の水です。だから、水面が凍るくらいの水温になると、底の方に比較的マシな4℃の水があるわけです。安定して暖かいのが底なので、底付近でのアタリが多くなる」

ハイシーズンというか、イメージ的な旬が冬のワカサギ釣りといっても、魚の活性自体は実は水温の高い秋のほうが高く釣りやすい。

「単純に数を釣りたいなら解禁している湖なら11月がいい。一日中、アタリがあるし、魚のサイズも大きい。魚の群れが濃くて、中層に浮くから巻き上げる時間も短い。そういうときは魚探の中層や表層に反応が出ます。ただ、桧原湖のおもしろさっていうのは、やっぱり冬に凝縮されていると思うんですよね」

調子を崩し気味だと聞いていたタイミングだったが、たしかに魚探あらわれるワカサギの反応は少ない。

「魚探を見ると、群れが真っ赤に出ている様子はありません。底の方に少し反応がある程度です。とはいえ、朝まずめは、まず、オモリを底から5㎝ほど浮かせて下鈎が底に着くかつかないかくらいのタナから始めてみます」

左右それぞれ手に持った竿を操作する齋藤
穂先を持つ齋藤の手。その先には釣り上げたワカサギが喰らいついている

ワカサギにはミャク釣りとフカセ釣りがあり、その違いは湖底からのオモリの位置。オモリを底から浮かせて釣る場合は、ミャク釣り。オモリを底につけて糸をたるませたりする場合はフカセ釣りとなる。当然、オモリが宙に浮いている場合は、竿にオモリ分の負荷が掛かり、オモリが底についていれば、竿にはオモリの負荷が掛からない。わずか数センチのタナの差にはなるが、糸の張り具合も竿に掛かる負荷も全然違う。当然、竿に求められる性能も変わる。

「最近は、ミャク釣りの人気が高まっていますが、僕はフカセ釣りを多用します。オモリの負荷を消すことでアタリを出しやすくすることができます」

シビアになればなるほどワカサギは底に集中し、下からせいぜい2本目、3本目の鈎に釣果の9割5分が集中するようになる。なんなら一番下の鈎にしか喰いつかないのも日常的。

「1日、300匹、200匹、あるいはそれ以下といったペースなら、1匹1匹を丁寧に釣り重ねていく展開になります」

繊細な細ハリスだけに扱いには注意を払った方が長持ちする。1匹づつ釣れている状況ということもあるのだろう。「まぁ、ハリ外しなんてなくても外せますけどね」とつぶやき、ワカサギの顔に齋藤の指が触れると、するりと鈎から外れた。

「個人的にはハリ外しに頼らず、鈎付近をつまんで中指でワカサギを落とす外し方を多用しますね。昔からやっていますから。そうするとハリスも鈎も長持ちします」

仕掛の張りというかオモリの重さを嫌がっていると判断するや、即座にタナを深くし、オモリを底につける齋藤。オモリの負荷を竿から抜いたことによって、穂先がフリーになり、その穂先に微細な振動が一瞬、あらわれた。

弧を描く竿先

「これ、アタリですよ」

さっと巻き上げると、1匹ぶら下がっていた。このアタリはオモリをぶら下げていては出せないアタリではないかと思わせる、気のせいかと思ってしまうほど小さな竿先の揺れだった。こういったシビアな状況では、餌の選択も重要な要素になる。

ベイトボックスに収められたエサ
ブドウ虫の写真

「ブドウ虫は、真ん中の鈎につけたり、上の鈎につけたり、人によって、状況によってまちまちですが、たしかに集魚効果は高いです」

ワカサギの餌として、もっとも人気があるのは赤サシ・白サシ。ほかに、ラビットや赤虫などが用いられる。
この日は、ラビットを中心に、紅サシも使用した。赤虫は使わないのだろうか?

「あー、赤虫は秋に使う餌です。細くてつけにくいのと、もちが悪いので、僕はあまり使わないですね。マイクロ当歳魚がメインとなる場合が多い昨今は、小さい餌がいい。ラビットはかなり入手が難しい餌ですが、小さくて、柔らかくて、匂いが強い。もし、ラビットが手に入るようなら、必ず持っていきたいところです。ラビットが入手できないときには、サシを小さくカットします」また、群れを寄せ、活性を上げるためにもブドウ虫はかかせない。

ワカサギ釣りを行う齋藤の手元と竿

冬のワカサギのアタリはとんでもなく小さい場合がある

齋藤の誘いは大きくわけて3種類。小さくスローに持ち上げる。2度ほどシャクる。やや高く持ち上げ大きく3度ほどシャクる。季節に応じて使い分けるのだろうか?

「季節というか、この年は激しいのがいい、別の年はスローがいいとか、年によっての傾向もあるし、時間帯で変わることもある。その日、その時でやってみて、アタリのパターンを探すという感じになりますね」

この日はなかなか特定のパターンにはめることができず、上がらないペースに手間取っていた。

「アタリを見方の一種ですが、竿から完全に手を離すということをよくやります。手に触れていると微細な震えが出てしまいますが、アタリがシビアなときには手の振動をカットして、アタリが出るようにするわけです」

そういう意味では湖が凍るということにはメリットもある。

「いま、イカダの上に浮いている小屋の中で釣りをしていますが、波で穂先が揺れるのがわかりますか? 本当に繊細なワカサギのアタリは、この揺れよりもさらに細かい震えるようなアタリもあります。そういった極小さいアタリをとるには、実は揺れない氷上のほうがよかったりします」

朝の時合いがひと段落したところで、「今の人らは、なかなかこんな釣具を目にすることもないでしょうけれど」とおもむろに取り出したのは、リールのついていない延べ竿。ピンピンのカーボンソリッド穂先は、扁平なグラスでは太刀打ち不可能に思えるほどの感度を有している。

竿先から伸びるラインを手に取り、つけた仕掛けを見せる齋藤
手繰釣りを行う齋藤の手元。手に持っているのはリールのない竿 ラインを手繰り寄せる齋藤

「リールがないし、ガイドがないし、アタリを出すということにここまで特化した釣具も珍しいでしょうね」

ピリリというアタリをとらえ、糸を手繰る。リールがないから素早く手で糸を手繰るしかないのだ。

「電動リールとPEラインがワカサギ釣りを誰もができるレジャーに押し上げてくれはしたんですが、一方でこういう文化もあったし、扱いづらいだけでアドバンテージがないわけではない」

いまでもガイドが凍り、糸が張り付いて釣りづらいような状況ともなると、リールを用いない手繰(たぐり)釣りを行うこともあるという。

「リールがない竿だけですから、余計なものがついていないから、とてつもなく軽いんですよ。2本指でつまめるくらいの軽さです。これくらい軽ければ、小さなワカサギが掛かった重みも感じとれるんです」

ガイドすらついていない分、軽量な竿先は指で曲げるとピンピンに張りがある一方で、極細。もちろんカーボンだけに、どんな違和感さえ表現してくれるだろうことは想像に難くない。さらにこんなのまでありますよ、と医療用カテーテルか何かを流用した、もはやワイヤーにしか見えない竿も見せてくれた。ワカサギという小さい魚の小さいアタリを拾うために工夫を重ねた偉人たちの英知を垣間見た瞬間だった。

「さっぱりアタリが止まっちゃいましたね」

だんだんとアタリが遠のいていたが、昼が近づくころには群れがいなくなってしまったのだろう。何をやってもアタリがなくなってしまった。

「1000匹とかそんなにたくさん釣れる日なんて、シーズンでも限られていますよね。誰が何をやっても釣れる日なんていうのは、案外、おもしろくないものです。なんとかアタリをひねり出し、パターンを探りながらしっかり穂先にアタリを出して1匹ずつ釣るワカサギ釣りも、なかなか趣深いものですよ」

来シーズンこそは穴釣りができますように、
そう祈りながらもうじき禁漁を迎える桧原湖に別れを告げた。

笑顔で釣りを楽しむ齋藤