がまかつインストラクター
高園 知明
たかぞの ともあき
20代半ばでイシダイ釣りを始め鹿児島県甑島(こしきじま)で初めて釣ったイシダイの引きの強さに魅せられてどっぷりハマる。宙釣り武器に九州本土はもとより遠征遠征も積極的にこなす。近年は大分県南をメインに攻めている。自己記録は68cm、5.8kg。

九州のイシダイ師が漁師の技術を取り入れて昭和30年代後半に完成させた手持ち竿の釣りである。

遊びの釣りとしては、昭和初期に関東の伊豆・八幡野で始まったとされるイシダイ釣り。昭和30年代に入りグラスロッドとスタードラグリール(両軸受けリール)が普及するにつれて発展し西日本へ広まっていった。
幻とも呼ばれる磯の王者を手にするため、ピトン(竿受け)に竿を掛けてアタリをじっくり待つ「置き竿」の関東や関西に対し、九州では新たなスタイルが誕生する。竿を手持ちに狙う「宙釣り」だ。
これは、昭和30年代後半に、北九州の釣り人が宮崎県門川のイシダイ漁師と親しくなり、泊まり込みで教えを請うなかで、漁師の技術を取り入れて完成させたもの。マキエを撒いてイシダイを寄せ、磯際のタナやカベ、かけ上がりを手持ち竿で狙い、アタリに対して送り込んだり誘い上げたりして積極的に喰わせていく攻めの釣りだ。長崎県男女群島などの離島で浅場や浅ダナを狙うスタイルは「南方宙釣り」と呼ばれ、イシダイを数釣るための超攻撃的な釣りとして人気が高い。高園知明さんに南方宙釣りの魅力とノウハウを教えてもらおう。

男女群島の上の赤瀬で竿を出す高園。前に緑が見える島が男島、右の上部が白い三角の磯は北村瀬
なんといっても手持ち竿によるダイレクト感と数が釣れるのが魅力ですね。穂先を押さえ込み引き込んでいくイシダイのアタリ、反転して走らせるために誘い上げたり送り込んだりする駆け引き、反転して走ったときの本アタリ、掛けた瞬間の衝撃と強烈な締め込み、そうしたすべてをダイレクトに体で感じられる。南方宙釣りは、それを何度も味わえるわけですから、たまりませんね。

送り込んで走らせてアワセをたたき込む。至福のひととき

ミドルクラス中心にデカバンと呼ばれる60cmオーバーや時にはイシガキダイの老成魚であるクチジロが釣れることもある。
竿は先調子で操作性がいい手持ち用の5m
竿は手持ち用の4.8mか5m。手持ち用の竿は先調子で張りがあって操作性がいい。磯際のタナやカベに仕掛を落ち着かせやすいし、小さなアタリも分かりやすく、送り込みや誘い上げもしやすいですね。「がま石レギスⅢ」の「手持ち」や「あわせ」はリーズナブルでビギナーさんにもおすすめです。リールはカウンター付きのイシダイ専用リール。道糸がどれだけ出ているかが数字で表示されるので、自分がいまどのタナを狙っているのかが一目瞭然。アタリが出たタナへ確実に打ち返すことができます。
道糸はナイロンの20号。伸びがあるナイロンは釣り人に負担がかからず、不意の大物がきたときにもはち切れることがないからですね。

操作性と穂先の感度を追求したのが手持ち用のイシダイ竿。
4.8mや5mの長さで取り回しもいい
軽めのオモリを使うワイヤー仕掛

瀬ズレワイヤーにナツメオモリを通した高園の仕掛。
白いクッションの先に付けたラセンサルカンでハリスワイヤーが素早く交換できる
仕掛が磯に当たった状態で釣るので、瀬ズレで道糸が切れないによう道糸の先に瀬ズレワイヤーを付けます。7本ヨリ37番を2mほど取り、その中にオモリを入れるのですが、オモリはナツメオモリの8〜12号。南方宙釣りでは穴の大きな「真空オモリ」を使う方も少なくないですが、私は形状的にタナに乗せやすくカベでも落ち着きがいいナツメオモリばっかりです。オモリは軽いほうが、潮に乗ってマキエが落ち着く場所に届けやすいし、タナやカベに落ち着かせやすい。イシダイがエサをくわえて持って行くときにはオモリごと引っ張っていくので、軽いほうが違和感は少ないですよね。オモリが重いと潮乗りが悪いのでマキエがたまる場所に届かなかったり、タナに落ち着かずに落ちたりします。またイシダイに違和感を与えて食い込みも悪い。だから、潮の流れに合わせて仕掛が落ち着く範囲で軽い号数を使います。
ハリスは7本ヨリワイヤの38番で35〜40cm。短いとアタリは明確に出ますが喰い込みは悪くなる。長いと喰い込みはいいもののアタリの出方が鈍くなる。アタリの出やすさと喰い込みのよさのバランスがちょうどいいのが35〜40cmです。瀬ズレワイヤーの先にはラセンサルカンを取り付けているので、ハリス交換は素早く簡単におこなえます。鈎はいろいろな形状のものがあるので、使うエサや喰い込みを見ながらローテーションするのがいいですね。赤貝をメインに使うなら軸の長い鈎、バフンウニを使うならフトコロの広い鈎といった具合に、エサの付けやすさを基本にして、アタリはあるのに喰い込みが悪いときには形状を替えてやると素直に喰い込むことがあります。号数的には16号前後です。

ハリスワイヤーは7本ヨリ38番。鈎はイシダイ鈎の16号がメイン。餌の種類やイシダイの活性に応じて形状の違う鈎を使うと喰い込みがアップする
赤貝を基本に餌取りが多ければバフンウニ
基本的に赤貝ですが、餌取りが増えてくるとバフンウニも用意し、サシ餌と同じものをマキ餌にします。
赤貝の刺し方は、餌取りが少なければハンマーで殻を割って取り出したムキ身、餌取りが多いときにはムキ身を塩締めにしたり、殻を粗く割ってそのまま鈎に刺します。鈎に付ける数は5〜7粒を基本に、餌取りが多ければ数を増やし、イシダイの喰い気が立ってくれば少なくすると喰い込みが早くなります。
バフンウニは上の穴(肛門)から下の口に向けてハリを通し2、3個付けます。ハリを手に持ち直接刺すこともできますが、ウニ通しを使うと指が痛くなくていいですよ。

南方宙釣りでは定番中の定番といえる赤貝

殻を割って取り出したムキ身のジュズ掛け。
喰い込みはいいが餌取りに弱い

餌取りが多いときは割った殻を取らずにそのまま鈎に刺す

餌取りに強くイシダイの喰いがいいバフンウニ。
殻ごとバリバリ喰ってくる

バフンウニの2個掛け

ウニ通しにバフンウニを通す。
先端のカギにハリスワイヤの環を掛けて引き抜くことで簡単に餌をセットできる
切り立つ壁の潮が当たるところ
だらだらと落ち込むのではなく、ストンと落ちる壁状になっているところ。それの潮が当たるタナやカベにイシダイは付いています。前から潮が当ててくる場所はもちろん、横流れであっても回り込む潮が当たるワレやくぼみ、潮裏であっても急潮が回り込む場所などですね。

磯際のタナやカベを狙う南方宙釣りは、 足元から切り立ち潮が当たるところがポイントだ
潮が巻いたり当たる場所に届けるうに
浅いタナにイシダイを寄せて喰い気を促すために、南方宙釣りではマキ餌が欠かせません。サシ餌と同じものを細かく潰したものを、潮の流れを見ながら撒きます。潮が巻いたり当たってくる場所にマキ餌はたまるので、そこに届けるように潮上に打ちます。マキ餌は潮が動いているときに打ちます。これは上物とまったく一緒で、流れる潮に魚が寄ってくる。潮が止まっているときは魚の活性も低いので、あまり意味がないんですよ。潮が動いて活性の上がったときにマキ餌を撒くことでイシダイを呼び込むことができます。パラパラとこまめにマキ餌を撒きながら打ち返すことが大切です。

仕掛の打ち返し数投に一度パラパラと少量のマキ餌を撒く
5mや8mといった上層の餌取りが多い場所
上層のタナから狙います。仮に水深が20mあったとして5mとか8mとかが上層、15m前後が中層、底近くが下層になるわけですが、特に乗っ込み期はマキ餌につられて浅いタナまでイシダイは浮いてくるので、上から狙っていきます。餌取りの活性が高いところにイシダイも寄ってくるので、まずは餌取りが多いタナから。探り打ち返しを続けるうちにイシダイの力強いアタリが出るはずです。潮が速くなるとイシダイは浅く浮く傾向にあるので、それまで狙っていたタナよりも浅く釣ってみることも忘れずに。仕掛が乗る段になった棚状のところだけでなく、すとんと切り立つ壁状のところも、潮が舞いたり当たる場所では仕掛が横に振られずに落ち着くところがありますよ。

底物と呼ばれるイシダイだがマキ餌につられて浅いタナまで浮くる。
南方宙釣りでは海面から5mといった浅ダナで喰ってくることも珍しくない
穂先を上下に揺らすのが餌取り。押さえればイシダイ
こちょこちょ穂先を上下に揺らすのは餌取り、穂先をすーっと押さえて戻ってこないのがイシダイのアタリです。大きく穂先を押さえ込むこともあれば、すっと少しだけ押さえるときもあります。
イシダイのくちばし状の硬い歯に鈎は掛かりません。餌をくわえたイシダイが反転して走ったときに口の横のカンヌキやジゴクと呼ばれる部分にハリが回り掛かります。イシダイのアタリが出れば、竿で送り込んだり誘い上げたりして走らせるのはそのためです。

穂先を押さえて戻ってこないのがイシダイのアタリだ
引き込みに合わせて竿を下げるか引き上げるか。
アワセは道糸と竿が一直線になってから
リールシートの前方を左手で竿尻を右手で持ち、竿先が水平よりも少し下になるように構えるのが基本です。イシダイのアタリが出れば竿先を下げてついていくのが送り込み。人によってはテンションを強めていく方もおられますが、私はテンションをあまりかけずに、引かれる分だけついていきます。そして、道糸と竿が一直線になりグーッと力強く引き込まれたときにアワセを入れます。
穂先を押さえるものの、あとが続かないときがあります。地形的にくぼみになっていたりして走るスペースがないときですね。こんなときは10cmから数10cm、じわーっと仕掛を誘い上げて反転して走るスペースを作ってやることで走りにつなげます。
いずれにしてもイシダイが走って道糸と竿が一直線になり力強く引き込まれるまで待つのがセオリー。素直に走ることもあれば、途中でエサを放してしまうこともある。送り込んだり誘い上げたりして、いかに走らせるか、その駆け引きが南方宙釣りの醍醐味です。

穂先を下げてアタリについていく。
道糸竿が一直線になって強く引き込まれるまでアワセはがまんだ

イシダイの引きは強烈だ。
腰を落として締め込みに耐える。
ロッドのパワーをフル活用したガチンコ勝負がイシダイ釣りの魅力
イシダイを海面まで浮かせた最後は豪快に抜き上げる。
釣り人も見ている方も気持ちいい瞬間

こまめに打ち返しフォールで誘う。潮の変化を見逃さない
アタリがないからといって、ずっと仕掛を入れっぱなしにするのではなく、こまめに打ち返すことが大事です。マキ餌を撒いて打ち返すことで、周りにいるイシダイに餌をアピール。それがアタリにつながります。赤貝は汁気があってニオイもあるので魚の寄りもいいですが、バフンウニの場合はニオイも少なく小さくて目立たないので、置きっぱなしの餌にはあまり喰ってきません。着底後20秒ほどで早め早めに打ち返します。要はフォールで魅せて誘うことが大切です。
仕掛を投入しリールのカウンターでアタリの出たタナまで道糸が出たらストッパーをオンにして、そのまま落とし込んでいくと、同じタナをきっちり狙えます。仕掛が落ち着いた瞬間に当たってくることも珍しくないので、すぐにアタリが取れる体勢になるようにしておきましょう。
潮の角度や速さは一定ではありません。たとえば横流れがちょっと変わって斜め前から入ってきたりする。そのタイミングで当たってきたりするんですよ。仕掛を打ち返すなかで、糸の出方、仕掛の落ち方を見ながら、角度がどうなのかを把握する。オモリやエサが横に流れていたのが、足元に向かってスッと入ってくる。磯に当たってくる角度の変化ですね。そんなときがチャンスです。

潮の角度が変わり右足元に当ててきた。チャンス到来

銀ワサと呼ばれる縞の消えたオスのイシダイ。
してやったりの高園