GAMAKATSU がまかつ

マイナス3度の精進湖 ワカサギ10束に迫るワザ5選 マイナス3度の精進湖 ワカサギ10束に迫るワザ5選

尾﨑 渚(おざき・なぎさ)

山梨県山中湖のワカサギレコードを持つ、数釣りをこよなく愛す元バスプロ。プロアングラーにあこがれ関西からこの地へ移住。最近は家族でオートキャンプをしながらのワカサギ釣りも楽しんでいる。1991年生まれ

尾﨑渚 写真

TV番組からのむちゃ振りオファー
しかし尾﨑はやってのけた

山梨県精進湖の、文字通り湖畔に立つ釣宿「釣舟・湖畔荘」のここ1年のワカサギレコードは975尾。これは、2024年11月ごろ、最低200尾、釣れている人で500尾という状況で飛び出した数字。そして、この記録に挑むというTV番組があり、そのミッションを受けたのは尾﨑渚。彼は2511尾という驚異的な山中湖レコードを持つオトコだが…。
しかし、この厳命を受けたのが極寒の2月。しかもこの時期のワカサギは産卵期で、超こわがりでおまけに逃げ足が早いそう。その証拠に、この釣宿の最近の釣果は平均10尾。しかも直近はボートを漕ぎだす釣り人ゼロ状態だった。その中でレコードブレイクせよとは…。

「昨日のプラの状況から100尾釣れれば御の字で、現実的な目標は200尾かなあ」と、尾﨑渚は途方に暮れていた。

「でも、この番組で僕に要求されているのはレコードブレイクだと思うので、10束(1000尾)は狙いにいきます」

結果、尾﨑はやってのけた。早朝から宿の終業時間、17時まで粘りに粘って822尾。途中の釣果からは、小説でも創作できないストーリーを経て、湖畔荘レコードに迫った。 その理由を5つに絞って聞いてみた。

手漕ぎボート内に配置された、尾﨑渚の二刀流釣りセット

これが尾﨑渚の二刀流セット。中央には尾﨑考案の”瞬早”ハリはずし「ワカサギフォーク」と、結果的に神器となった魚群探知機。右手前にグローブが見えるが、最中は小さな紅サシをカットするので、移動中のみの使用となる

ベイトボックスに入った紅サシ

ベイトボックス「がま鰙 銀麗」の中には紅サシが。これを1尾1尾小さな小さな鈎に、フロートが付いた和バサミ様の「がま鰙 銀麗シザース」を使ってカットした紅サシを刺す。寒さで手がかじかむが、餌付けには時間をかけられない

人差し指から薬指の上へ乗せた、釣り上げたワカサギ

釣れるワカサギは12、3㎝がほとんど。ただし群れは少なくかつ小さかった

手漕ぎボート上で、湯気の上がるカップコーヒーを両手で包み持つ尾﨑

朝7時の気温はマイナス3度で風もやや強め。熱いコーヒーがうれしい一瞬だ

ワカサギでランガン⁉

手漕ぎボートを使ったワカサギ釣りでは、アンカーを打ち、同じ場所にとどまって粘ることが多い。魚探でワカサギ群れを見つけ、その場所にじっくり腰をすえ数を稼ぐというのがセオリーだが…。

この日の精進湖は違った。産卵期に入ったからなのかワカサギは非常にセンシティブ。アンカーを打つと群れが、ほんの10~15分で散ってしまうのだ。その短い時間にワカサギを根こそぎ釣り上げ、魚探で次のポイントを探す。まさに、ラン&ガン。いや正確にはロウ&ガンか。

ボートに取り付けられた魚群探知機
魚群探知機を見ながらボートのオールを漕ぐ尾﨑。同船するカメラスタッフ魚探を注視している。

魚探を見ながらオールを漕ぎまくり、群れを探す。同船するカメラマンの体重分が重いんだけど…。

ボート釣りでノンアンカー⁉

沖釣りでいうドテラ流し。アンカーを打たないで風や流れに身を任せてボートを漂わせて釣る。ワカサギの数釣りではあまり用いない釣法だが、アンカーを入れると散ってしまって釣りにならないほどの小グループをこまめに拾い釣りするのが狙いだ。

ただしこれは風の強さと群れの厚さが条件となる。魚探にうつるワカサギの群れが厚く濃い場合はもちろんアンカーを入れて粘るし、風が強いときはボートがポイントから大きく流されてしまうのでこれは使えない。

湖上に浮かぶボート上、アンカーのついたロープを操作する尾﨑と、その模様をカメラに収めるスタッフ。

アンカーを打ったり打たなかったりの試行錯誤。寒くて気が折れそうになるが、数釣り師の矜持がそれを許さない

餌は付けない⁉

オモリ近くのラインを持ち、仕掛の準備を進める尾﨑

全部の鈎に餌を付けて連掛けを狙うか、多少のリスクを負っても時合を狙うか。数釣り師にとって究極の選択だ

まったく餌を付けないわけではない。
「極寒」でおまけに「極渋り」の状況で数を稼ぐには手返しが勝負。だから一度放り込んで上げた仕掛の鈎7本中、仮に3本に餌が付いていないとしても、仕掛をそのまま湖中に再び放り込む。なぜなら餌を付けているその時間が惜しいのだ。
一瞬で終わる高活性を逃さないための究極の選択。

極寒でこの仕掛⁉

尾﨑がこの日使った仕掛は、がまかつの「ワカサギ王スタンダード7本仕掛(狐タイプ)」。鈎が1.5号で、ハリスが0.3号で3㎝、幹糸は0.4号、全長が86㎝のタイプ。オモリは少し軽めの1.5号(5g)。

使用した仕掛のパッケージを持ち微笑みを浮かべる尾﨑

ではなぜこんなに渋いのに、もっと細いハリスや柔らかいハリスや小鈎を使った仕掛を使わないのか。

鈎がもう一方の仕掛に引っ掛かり、絡まってしまっている様子

二刀流ゆえのトラブル。2本の仕掛が絡まってしまった。これは致命的なタイムロス。だからいつも使い慣れていて信頼できる仕掛をあえて使う

渋いとはいえ、まったくいないのではなく、ワカサギの群れは点在していて、かつ神経質になっているのですぐ移動してしまう。そんな中で、ワカサギの群れと遭遇できた時のために100%信頼できる仕掛を使う。

なぜなら、細い柔らかいハリスや小鈎が誘引する仕掛トラブルを究極まで減らしたいからだ。こういうときは極端を外すことが得策だ。

ワカサギでオバセ⁉

当日の当初のタナは、底から少し浮かせたところ。しかし反応が薄く、思い切ってオモリをドスンと底につけ仕掛にたるみを持たせた状態でワカサギを待った。鮎釣りでいうオバセを作って罠を張った。
この日は午後から風が強くなり、ボートが流されて、仕掛を張ったままでいると、かなり仕掛がスライドしてしまう。低水温時には非常にまずい状況だ。だからオバセで仕掛に余裕を持たせることが重要なのだ。

仕掛を上げ、掛かったワカサギ2尾に手を伸ばす尾﨑

底に這わせてオバセをとると連掛けがやまなくなった。ストイックに自分を追い込み、やれることは全部やったからこそ見つけたTipsだ

こうして仕掛にオバセを持たせ待っていると、精進湖を囲む山々に陽が落ちはじめた夕マズメにそのときはやってきた。
午前11時の時点では150尾。お昼過ぎには380尾。そしてそれから夕マズメを含め822尾まで伸ばした。驚異のラストスパートだ。

ここ最近の平均が一人当たり10尾ということを考えると、なんと80倍もの数字。それもマイナス3度の環境下で尾﨑はやってのけた。

湖の向こうに見える富士山。山頂部分は厚い雲に覆われている。

やや陽が傾いてきた。奥に見える名峰、富士山も刻によって姿を変える。気圧が下がりはじめたのか山頂の冠がとれない…

17時過ぎ、釣りを終えて桟橋にボートを結わえてもしばらく動けなかった尾﨑。「プライベートなら午前中で帰ってますよ」と一言を放ちマイカーに乗り込んだのは、辺りも暗くなった18時だった。

尾﨑渚のもっとも長い1日がやっと終わってくれた…。