上村恭生
浅ダナのセット釣りと両ダンゴを得意とする。型より数重視で、その日、その池でもっとも釣れるパターンの解明に情熱を燃やす。G杯をはじめ、数々の大会で優勝・入賞を果たす生粋のトーナメンターである。京都府在住。
この日のへらは、むしろ活性が高すぎる。6mのタナにへらを寄せるよりも前に、水面にへらがたむろしている状況となった。
「水面にいる魚と桟橋の下にいる魚は一番賢い魚。釣られることがないのがわかっている。もちろん、スレているわけではないからアグレッシブ。この魚につかまらないように振り込まなければいけない」
目の前に作り出した水深6mのへらぶなの層。この層がある場所にエサを落とさなければならないが、その前にへらに邪魔されるのは望ましくない。特に、水面のへらは活性が高く、勢いがある。上村はかなり柔らかめのエサをつけているため、上のへらにかき回されるのは望ましくない。そのために、へらが密集していない場所に的確に振り込む。少し空いている隙間を狙うのだが、これは緻密な振り込みができる竿でなければイメージする釣りが展開できない。
「長尺の竿の振り込みには慣れが必要。だけど、振り込みが的確な竿であればできるようになる」
幻将天は思い通りに振り込みが決まる竿。やがて吹き始めた強い横風の中でも、上村の振り込みは乱れなかった。なお、3~4mの中層にいるへらを避けるにはハリスを張ると嫌がって離すという。
「アワセて乗せることができるアタリが出るまで、つまり、その層にたどり着くまでに10回くらいへらが触っていると思われる」
落下しながら溶け、へらの口に吸い込まれては吐き出され、だんだん溶けたダンゴがハリのふところにわずかに残る。だいたい、小指の爪半分くらいになったところで、アワセて乗せるべき本命のアタリがでる。
2枚同時、1枚、2枚同時。銀白色に輝くコンディションのいいへらが釣れ始め、徐々にペースが上がり始める。そのたびに、魚体や魚持ちの撮影を間に挟む。それに対し、上村は特に嫌がるでもなく応じてくれるのだが、できることなら1枚釣って荒れた場を少しでも早く修正した方がペースを保つことができると解説する。
「へらを釣ったあとは、当然、へらが暴れて場所が荒れている。そして、撮影で次の1投に時間がかかった場合、作り出したへらの層がバラケてしまう」
乱れたへらの群れの層を正すための再開の1投。これは寄せるためのエサをうつ。柔らかくバラケのいい練り具合で止めたエサ。そのエサに対するウキの動きを見て、いけるとみれば、次は食わせのエサにするが、寄りが甘いと判断すれば再び寄せるためのエサをうつ。それらの情報は、すべてウキの様子から判断する。振り込んだあと、上村の左手はエサにそえられ絶えず動き続けている。そうしてウキを見ながら次の1投のエサを何%に練って仕上げるか決断するのである。
近くでの撮影を終え、離れた場所からの撮影に変わった瞬間、上村のペースがスピードアップした。パターンを構築し、中断なく釣りができることで本来の上村のリズムになったといえる。
「今日はへらウキの下から2個目のオレンジまで沈んだところででるアタリが乗せやすい」
日によってアタリのパターンは変わるが、ウキの下から2個目のオレンジが一度水面まで沈み、ゆっくり浮いてきた、次の瞬間、ツッと小さく沈むアタリを乗せる。ほかにも、食い上げやウキを消し込むアタリもあり、それらもすべて釣果につながったのだが、この日のパターンを上村はそう解説した。