久保野孝太郎(くぼの・こうたろう)
1969 年生まれ。がまかつフィールドテスター。関東勢初のG 杯グレ優勝を果たしたほか、G 杯チヌでも準優勝とトーナメントシーンで輝かしい戦績を残し、全国の磯を舞台に活躍。
竿選びのキモだけどわかりにくい“調子”を学ぶ
基本は“先”か“胴”か。諸々の革新で細分化も
まずは磯竿の基本についてのおさらいです。下の図は磯竿の「構造」「調子」についてざっくりと説明したものです。当連載の初回で述べた内容ですので、覚えている方は確認程度に読み進めてください。なお、製造するメーカーによって考え方や呼び方が異なります。あくまでも私が使っている『がまかつ』製の磯竿をイメージした解説として理解してください。
使用する素材や細部の仕様によって値段や使い心地は変わりますが、基本的な磯竿の造りは「5本継の振出竿」という点でほぼ共通しています。それに対し、銘柄によって大きく異なるのが「調子」です。これは竿の性格を大きく左右する要素ですから、ある程度の理解しておく必要があります。まずは「胴調子」「先調子」の2種類があることを覚えておき、そのうえで銘柄ごとの“味付け”を見ていくのがわかりやすいでしょう。
基本を確認したところで、銘柄ごとの“味付け”を見ていきましょう。最初に断っておきますが、ここからは釣り人それぞれの好みによっても評価が分かれます。自分の好みや釣りの傾向などをイメージしながら、竿選びの参考にしてください。
右の図はがまかつ製のグレ竿について、その性格の違いをわかりやすくしたものです。ホームページやカタログにも掲載されていますから、見たことがある人も多いはずです。色分けされていることからもわかるように、大まかに4タイプに分類されます。次頁でそれぞれの特徴などを説明していますので、まずはタイプ別の特徴を把握し、自分の釣りや好みに合った系統を見つけてください。そこから先は値段やフィーリングも加味して絞り込めばいいでしょう。
ちなみに、図内の黄色囲みは「バランスの取れた万能タイプ」に分類されるモデルです。左頁では解説を設けていませんが、各要素を過不足なく盛り込んだ造りになっています。このタイプから使い始めて経験を重ね、それから自分の好みに合う竿を探すのもいいでしょう。
「がま磯」のエントリーモデル『アルデナ』はバランスの取れた万能型。入門用としておすすめの一本
竿の調子や曲がりの支点を確かめてみよう!
私が新しい竿を見るときに行うのが、曲がり具合と竿が曲がる際の支点確認です。やり方は簡単。糸を通して竿を伸ばし、道糸の適当な場所を指先でつかんで竿を曲げてもらうのです。この一連で曲がり具合が確認できますし、どこまで曲げたところで竿のパワーが伝わってくるかを指先で感じとることができます。最近は「しっかり曲がる」竿が多い傾向にありますが、「しっかり曲がる」「しっかり起きてくる」を両立させるのは実はかなり難しい技術です。それがうまく兼備されていないと曲がった竿を起こす力が働かず、指先にもその力が伝わってきません。ただし、店頭でこの方法はなかなかできませんから、まずは手持ちの竿で試してみましょう。
フィッシングショーなどのイベントで行われていた竿曲げ体験ブース。様々な竿の調子や曲がり具合を確かめる意味で貴重な機会だったのだが……
久保野的磯竿の“調子”分類①
操作性重視の「競技系先調子」
前頁のポジショニングマップで右上に位置しているのがこのタイプです。ただ、『グラナード』は本流釣りや大物狙いに特化したモデルですので、『グレ競技スペシャル Ⅳ』がメインモデルと言ってよいでしょう。このタイプはいわゆる「先調子」と呼ばれるバランスで造られており、シャキッ! として操作性がよいのが特徴です。また、重心を手元寄りに置くことによって、持ち重りがしにくいのもメリットと言えます。投入時のブレが少なく、狙った場所にピシャッ! と投げられるのもよいところ。いずれも竿が曲がる際の支点を穂先側に近づけていることで得られる効果です。
魚を掛けてからは3番くらいまでが曲がり込んで力を発揮します。深く曲がり込ませずとも魚を引っ張れるのが特徴ですから、ヤリトリのピッチは速くなります。魚に主導権を渡さず、サッと取り込むような速いテンポの釣りに向いているので、あらかじめ時間が決められている大会の釣りに好適。ゆえに“競技”なのです。
久保野的磯竿の“調子”分類②
胴が働く「“曲げ”調子」
胴調子の長所として、「深い曲線を描いて優れたクッション性を発揮する」ことは昔から知られていました。ただ、いかにクッション性に優れていたとて、魚に主導権を握られてしまってはいつまでも寄せられません。「深い曲がり込み」と「魚を浮かせるための反発力」の兼備は、胴調子の竿にとって長年の課題とされていました。
それを解決するために生み出されたのが“曲げ”調子。魚が掛かるとしっかり曲がり込むのですが、4番〜5番上部に力がかかるとそれに反発する作用が働いて竿が起きてくるのが特徴です。ただし、この仕組みを理解していないと特性が発揮されませんから、竿のパワーが発揮される状態を釣り人が作る必要があります。魚の引きに合わせて竿を曲げるだけではなく、釣り人自身が絞り込むようにして“曲げる”ことで、初めてその真価を発揮するのです。「柔」と「剛」をバランスよく持ち合わせた、胴調子の進化形と言ってよいでしょう。
久保野的磯竿の“調子”分類③
全体で働く「“曲がり”調子」
上で述べた“曲げ”調子と似ているものの調子としては別モノです。あまり聞きなじみがない言葉とは思いますが、これは私が感覚的に付けたネーミングなのでご容赦ください(笑)。
“ 曲げ”調子が「釣り人自身が曲げ込んでいくと、ある場所から竿が力を発揮する」という傾向があるのに対し、こちらは「竿全体が曲がり込んで魚の引きを吸収し、その後に竿全体の反発力が効いて魚を浮かせる」といった性格の違いがあります。がまかつでは「本調子」と呼んでいる昔ながらの竿の調子で、ヘラブナ用の竿によく見られる特徴です。次頁で詳しく紹介する『がま磯スーパープレシード』はまさにこの調子を踏襲したモデル。極端に強い部分を設けずに全体にパワーが分散しているため、よどみのないマイルドな竿曲がりを実現しています。採用しているモデルは多くありませんが、キレイに竿を曲げ、ゆっくり魚の引きを味わいながらヤリトリを楽しみたい人におすすめします。